written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ある日、地球の磁場が狂い始めました。地球の核の回転が止まってしまったのです。このままでは人類の破滅です。そこで、地球の核まで出かけて、そこで水爆を爆発させ、そのショックで核の回転に再起動をかけようというとんでもない計画が実行に移されます。キーズ博士(アーロン・エッカート)がリーダーとなって、地球の核へと向かう計画が実行に移されます。しかし、その磁場の異常に伴い、異常気象が発生し、ローマやサンフランシスコも壊滅状態。果たして、地球を救うことはできるのでしょうか。
侵略者じゃない、地球の危機を扱った映画というと、「地球の危機」「メテオ」「アルマゲドン」といったもの、日本にも「妖星ゴラス」という佳作があり、かなり無理な設定だなあって素人目にもわかるけど、映画として面白く作ってあれば、きちんとお金のとれるものになっていました。むしろ、観客の方に2パターンありまして、奇想天外な話に突っ込み入れて、笑い倒してしまうというタイプと、素直に設定を飲み込んで映画の登場人物と一緒にドキドキハラハラしようというタイプ。映画としての出来がよくないと、前者の楽しみ方しかできなくなってしまいますが、映画としての作りがきちんとしていれば、両者の楽しみ方ができるということになります。私は、素直に映画の世界に身を委ねてしまいたい方でして、この映画にもいかにウソを説得力を持ってみせてくれるのかという期待がありました。実際に本編を観てみれば、やっぱり話は「ウソでえー」と突っ込みたくなるような展開なんですが、ジョン・アミエルの演出がテンポよく話を進めていくので、素直に物語にのることができました。かつて「ジャック・サマーズビー」でウソみたいな設定を、感動的なまでに盛り上げることに成功したアミエルの手腕はここでも健在でした。
地球規模の危機というのを描くのはなかなか大変です。大規模な災害シーンを作ろうとしても都市破壊がせいぜいですから、そこに物語の中心を置くと、地球を守ろうとする人間の動きが空回りに見えてしまうことになりかねません。この映画は、ペースメーカーの異常動作によって、集団死が発生するとか、鳩が狂ったように飛び回るといった、ミステリアスな災害シーンから始まることで、じわじわとスケールの大きさを出すことに成功しています。
そして、民間の大学教授である主人公がチームリーダーとなり、地底装甲車で地球の核へと旅立つわけですが、ここまでに、その搭乗員のキャラクターを要領よくかつ手抜きなく描いているところは、なかなかよくできています。また、そのメンツに、スタンリー・トゥッチ、デルロイ・リンド、ヒラリー・スワンク、ブルース・グリーンウッド、チェッキー・カリョといった渋い演技派を集めたことで、人間ドラマの部分で手抜きの印象を与えなかった演出は評価されてよいと思います。エゴとプライドと自己犠牲といったものをきちんとドラマの中に散りばめることに成功しています。また、その地底装甲車の外の部分の展開は、思い切ったご都合主義で要領よく捌いていくという一種の割り切りが、この映画を娯楽映画としてうまくまとめているように思います。
回転を停止した地球の核で水爆を爆発させると、そのショックで回転し始めるのかどうかという理屈にはあまりこだわらず、地下のマントルの5,000度に耐えられるスーツがあるのかどうかということもさておけば、なかなかに盛り上がる展開を見せます。地底装甲車の乗組員に、特攻隊とか「アルマゲドン」のような悲壮感を感じさせなかったのは正解でして、技術屋の仕事なのだという点が前面に出た分、後半の自己犠牲の部分が泣ける展開となりました。人間の英知と科学が地球を救うのだという視点は、今風ではない、むしろ「強いアメリカという信仰の時代」、日本で言うなら高度成長期の発想なので、今こういう映画を作るという趣旨には理解しがたいものがあるのも事実で、実際アメリカ公開では、制作費も回収できない赤字となってしまったようです。ここで「アルマゲドン」や「インデペンデンス・デイ」のような大ハッタリをかまさなかったアミエルのセンスは買いなのですが、その分、今のお客さんを集めるには力不足だったようです。でも、私としては、1960年代の「ミクロの決死圏」「妖星ゴラス」のような楽天的なSF娯楽映画は好きですから、この映画の評価は結構高いです。
地球の危機というと、私の世代は「ノストラダムスの大予言」とそれが流行った1970年代後半に思いが行ってしまいます。あの頃、21世紀が拝めるなんて無理だろうなあって、本気で思っていたのですよ。映画館で「日本沈没」や「ノストラダムスの大予言」を観て、マジに受け止めてビビっていたのです。少年雑誌では、異常気象や恐怖の未来の口絵特集があり、子供心にも公害とPCB(今の人にわかるかな)で地球は滅んでいくのだと思いつつ、日々の遊びに明け暮れていました。あの頃に比べますと、今はいい時代なのかなという気がします。こういう映画を真に受けないだけの、ゆとりがあるわけですし。でも、日々の暮らしは、昔よりも贅沢になっているのに、満たされないものを抱え、未来への希望を持てなくなっているのは事実です。こういうあっけらかんとした災害SF映画が、観客の心まで届いてこない今というのは、どういう時代なんだろうって、ちょっと考えてもしまったのでした。
お薦め度 | ×△○◎ | ウソでもきちんと映画として作ってあるから娯楽映画としてマル。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 地球規模のディザスターをうまく見せてまとめた構成が買い。 |
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