ナイロビの蜂
The Constant Gardener


日 にて
亡き妻の死の謎をさぐる外交官のたどり着いた真実とは?


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


ケニヤ駐在のイギリス外交官ジャスティン(レイフ・ファインズ)の夫人テッサ(レイチェル・ワイス)が無残な死体で発見されました。テッサはそれまで、アフリカの貧しい人々への支援行動を続けてきていて、過激な言動が政府関係者からもにらまれていました。さらに、ジャスティンにも黙って、何かを調査していたようなのです。ジャスティンはテッサの足取りを追っていくのですが、そこで、製薬会社がアフリカの貧しい人々を使って人体実験を行い、その結果を隠蔽しているという事実に突き当たります。テッサはそれを公にしようとして命を落としたことを知り、ジャスティンはテッサの自分に対する愛情を知り、そして、彼女への愛を確信するのでした。

「シティ・オブ・ゴッド」という映画で一躍国際的に有名になったフェルナンド・メイレレス監督の新作です。ジョン・ル・カレの原作をもとに、社会派ミステリーという形をとりながら、一つの愛の物語を描いています。オープニングでヒロインが死んでしまい、前半は、生前の彼女の回想シーンがメインとなります。リベラルで、正義感の強いテッサとおっとりした外交官ジャスティンが恋に落ちるのですが、テッサはジャスティンに自分の正義への熱情を隠しながら、彼の妻となります。ジャスティン自身もテッサの行動を深く詮索することはしないでいたのですが、彼女の死によって、彼は彼女のことをほとんど知らなかったという事実に直面することになります。まじめで有能な外交官であったジャスティンですが、妻が何を感じ、何を考えていたのかということに無頓着でした。そして、彼は彼女のやろうとしたことを彼女の後をたどることで追体験しようとするのです。

メインストーリーは二人の愛の物語なんですが、その展開の中で浮き上がってくるのは、アフリカの貧困と企業側のやりたい放題です。新薬の実験で、何人もの人が命を落としても、製薬会社は痛くもかゆくもないという実態にはぞっとさせられるものがあります。人体実験というとおどろおどろしいものがありますが、むしろ、経済的な観点から、安いコストで新薬のテストができるという発想ですから、その考え方は、例えば人口密度の低い田舎に核廃棄物処理施設を作るのと大差ありません。また、もう一つ、おぞましい話として、アフリカの人々を使ってテストした薬を、アメリカやヨーロッパの製薬会社は、自国での値段よりもうんと高い値段でアフリカに輸出しているという話が出てきます。本当だとしたらずいぶんとひどい話です。

さらに、事実の告発にあたって、イギリスの外務省アフリカ局長が彼女の口封じに一枚噛んでいたとわかります。製薬会社はイギリスに工場を作り、失業者に職を与え、国益に貢献しているのです。だったら、何してもいいのかというわけではないんですが、金の力は絶大なものがあります。とはいえ、この映画では、単純に正義と悪に二元論を振りかざすことはしていません。むしろ、部外者が目を背けたくなるそんな現実の中で、生活する人々を描いていますので、観ているこちらの方が後ろめたい気分になります。

ドラマは、テッサの足跡を追うジャスティンが最後に自分の居場所を見つけることになるのですが、これが最近の映画には珍しい、一種の心中ものみたいな展開になります。物静かなジャスティンに秘められた愛情の深さが、ホロ苦い後味を運んできます。ラストは、社会派ミステリーではなく、究極の愛の物語になるのですが、その流れが極めて自然なのは演出の力なのでしょうか。観終えて、映画としての見応え、満腹感が感じられ、お金を払って映画館に入ったら、こういう映画を観たいよねという一本に仕上がっています。

主演二人がすばらしくよくって、レイチェル・ワイスがアカデミー賞受賞も納得の大熱演でした。独善的な匂いも残しながら大変魅力的な女性になっていまして、彼女の出る映画はこれからも要注意のようです。また、セザール・シャローンのキャメラワークも印象的で、わざと人物より背景にピントを合わせたり、うーんと寄ることでインパクトを出したりする一方、引きのカットでアフリカの美しくの厳しい自然環境を切り取っています。


お薦め度×どうにもヘビーな展開と結末なんだけど、色々な人の感想が聞きたい
採点★★★★
(8/10)
レイチェル・ワイスが大変魅力的で、彼女のおかげで愛のドラマに昇華しました

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