written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
アナ(ニコル・キッドマン)は夫ショーンを失って10年、新しい恋人ジョゼフ(ダニー・ヒューストン)のプロポーズをようやっと受け入れます。そんな矢先、彼女の前に10歳のショーンという少年が現れ、自分は10年前に死んだ夫のショーンであり、ジョゼフとは結婚するなと言い出します。そんなバカなことが思ったアナですが、少年は夫と自分の秘密まで知っていました。そして、だんだんと彼女は少年が夫のショーンであると信じる気持ちが強まっていきます。果たして、少年は本当に10年前に死んだ夫の生まれ変わりなのでしょうか。
生まれ変わりを題材にしたミステリーの一編です。MTV出身のジョナサン・グレイザー監督が、ニコル・キッドマンをヒロインに、ダニー・ヒューストン、ローレン・バコール、アリソン・エリオット、ピーター・ストーメアにアン・ヘッシュという一癖ある面々が顔を揃えて、あり得ないお話を見ごたえのあるドラマに仕上げました。超自然スリラーのような、ミステリーのようなメロドラマのような、色々な切り口を持ったストーリーは、観る人によって、様々な顔を見せてくれます。グレイザーの演出は解釈の余地を残してドラマをしめくくることで、さらに奥行きを感じさせることに成功しています。ただ、私にとって、この映画は悲劇と苦い後味を残しました。
この先はドラマの結末に触れますのでご注意下さい。
このヒロインが最初の夫の死から、なかなか立ち直れず、新しい彼氏との結婚にも踏み切れなかったらしいことが冒頭で示されます。ニコル・キッドマンは繊細で壊れやすいヒロインを演じきりました。アップの長回しも多い映画でしたけど、彼女は見事にその演出にこたえていました。それだけに、段々と、少年が夫のショーンに見えてくるところが痛々しいものがありました。最初のうちはまともに取り合っていなかった筈のアナがいつの間にか少年と離れられなくなってしまう、それは少年がショーンに似ているからではなく、死別した夫が10年間で彼女の中で必要以上に大きな存在になってしまったからではないでしょうか。少年にとっては、運命的なめぐり合わせがあったものの、基本的には、思春期の揺らぎの一つの形として、若い未亡人への恋愛感情になったのではないかと思うのです。そして、少年が本当に亡夫の生まれ変わりなのかどうかは、実はこの映画の中であまり重視されていないのです。一応の説明はされるけど、ホントのところ疑問の余地もあるという見せ方をしています。夫であるショーンは果たして生前どんな人間だったのか、本当にアナを愛していたのか、でも、映画はそんなことにはほとんど興味がないように進んで行き、アナがどのように壊れていくのかを追っていくのです。
10年前に死んだダンナの亡霊に振り回されるヒロインは正気を失っているように見えます。亡霊が彼女に付け入ることができたのには、新しい彼氏、ジョゼフに対してアナが漠然とした不安を感じていたからではないかと思わせるところがあります。ダニー・ヒューストンが大変細やかに演じたジョゼフというキャラは、どこか観客を不安にさせるような一面があり、ショーン少年が「ジョゼフと結婚するな」と言い出すと、何だか少年の方に肩入れしたくなります。そして、それは実はアナが望んでいることではないのか、マリッジブルーで気分的にローになっている彼女の背中を押すかのように現れた亡夫の亡霊は、見事に彼女の望むツボを突いてくるのです。ところが、亡霊はいいところでその姿を消し、アナの心は宙ぶらりんのまま放り出されてしまいます。ラスト近く、ジョゼフに謝罪し、もう一度やり直したいと訴えるアナの姿はあまりにも痛々しく、心が冷めかけていたジョゼフも、同情半分で彼女の謝罪を受け入れたように見えます。
しかし、彼女の心に憑りついた亡夫の亡霊は、彼女を簡単には手放さなかったのです。何の罪もないヒロインが最後までその呪縛から逃れられないラストは恐ろしいものがあります。そして、ジョゼフもそんな壊れかけのアナを一生看取ることになるのではないかと思うと、これは悲劇のデッドエンドだと言えましょう。そもそもの原因をたどると、やはりショーンという少年に行き着くことになり、こいつがある女性の人生を壊した(幸福の可能性を摘み取った)とも言えます。子供が大人の世界に首を突っ込んで純真な善人ヅラして全てを破壊してしまうというと、昔のイギリス映画「落ちた偶像」を思い出します。「落ちた偶像」の少年にはむちゃくちゃ不快感を持ったのですが、今回のショーン少年に対しては、むしろ運命に翻弄される被害者のようにも見えたのが不思議でした。超常現象というオブラートが少年の行動の恐ろしさをうまくカバーしたのかもしれません。
アメリカ映画にしては曖昧な決着が珍しく、色々と空想の余地がある映画だと思います。また、キッドマンを初め、演技力に頼るところの大きい物語に演技陣は見事にこたえています。クローズアップの長さや音楽の使い方に才気走ったものも感じられるのですが、リアリティを度外視してヒロインの壊れっぷりをドラマチックに見せたところが、この映画の面白さだと思った次第です。
お薦め度 | ×△○◎ | スピリチュアルな現代風悲劇がいろんな意味で興味深い |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 映画のできはそこそこと思いつつ、題材の面白さに心惹かれます |
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