written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
突然倒れた母から、20年前に離婚した時に離れ離れになった弟の消息を調べて欲しいと頼まれたデボラ(アリー・シーディ)は、妹二人とともにハーバート大学に出かけて、弟ダニエル(デビッドリー・ウィルソン)を探し出します。ダニエルはいいところのお嬢さんとの結婚を控えていまして、突然現れた3人のオバさんにうれしくもびっくりです。弟と暮す父は、デボラにとっては20年前に母と娘3人を捨てた極悪人です。母もデボラの姉妹も苦労を重ね、今も暮し向きはよくないのに、憎んでも憎み足りない父は事業を成功させ今や名士状態です。20年の時間のしこりはそう簡単になくなるものではないのでした。
主演者の一人、デビッドリー・ウィルソンの脚本をもとに、スティーブン・メイラーが初監督しました。母の病気がもとで再会することなった家族の数日間を描いた作品です。主人公のデボラ以下の三姉妹は見た目にも華のない下世話な中年女性トリオになってまして、一方のダニエルは頭は薄いけど一応ハイソな皆様とお付き合いもありそうなやさ男。ダニエルにしてみれば、突然ガラの悪そうな姉が3人も湧いて出てきたようなもんです。それでも、ダニエルは彼女たちを歓迎しますし、再会を喜んでいます。でも、ダニエルの婚約者はちょっとハイソ風の皆様で、彼女たちを見下ろすようなところがあります。そのあたりのカルチャーギャップの部分が面白い構図になって、単なる家族再会モノ以上の面白さが出ました。
三姉妹がそれぞれ明確にキャラクター分けされていまして、長女のデボラは芯の強いいつも怒ったような顔をしてるけど、意外ともろい女性。次女のドナは4人の子持ちでダンナ失業中の太めのオバさんなんですが、他人を見る目がやさしい思いやりのある女性です。そして三女のダイアンは、一見安っぽくハデハデなんですが、事態を冷静に見つめる聡明さがあります。この3人が姉妹という仲が良さそうで、そうでもないという微妙な関係をメイラーの演出はきめこまかく描いています。確かに友人と違って兄弟姉妹は選べない関係、それも時として団結し時としては競争する相手となります。上下が明確な親子に比べると関係が不安定です。そんな距離感がうまく描かれていまして、「うーん、そうだよなあ」ってうなづいてしまうところが多かったです。
また、離婚の描き方も注目すべきものがありました。離婚した家族は母親は3人の娘を引き取り、父親は息子だけを引き取ります。娘たちにしてみれば、母と娘を捨てた憎むべき存在として父親はありつづけるのですが、息子にしてみれば、そんな極悪非道な人間には見えません。そんな姉と父の間に立って右往左往してしまう弟ダニエルの困惑には共感できるものがあります。頑なに父親を否定しつづけるデボラの気持ちも、少しずつでも歩み寄ろうとするドナやダイアンの気持ちも、うなづけるものがありました。また、物語のキーになる母親の存在感は演じたタイン・デイリーの貫禄勝ちと言ったところですが、前半での、絶対的な母親像というものが、後半の展開への伏線となっているのがうまいところです。
登場人物は基本的にみな善意の存在なのに、離婚をというイベントがそこに憎悪と誤解を生んで行くというのは、離婚経験のある方、或いは予定のある方にはつらい展開かもしれません。でも、この映画では、それらの憎悪や誤解は乗り越えられるものとして描かれています。所詮は離婚なんて当事者間の問題であり、後のことはそれに付随したものでしかない筈です。確かに色々な人が傷つくかもしれないけど、離婚という選択をしないとその傷がもっと深くなるということまで思い至ってしまいました。
またサブプロットとしての、次女ドナの家族のエピソードが結構泣かせます。ダンナは失業中で、子供4人もいて、夫婦喧嘩が絶えません。姉デボラからもバカにされちゃうようなダメなダンナだけど、それでも家族としての絆は深いのです。独身のダイアン、シングルマザーのデボラに比べるとどう見ても所帯じみていて、女性としての魅力は今イチに見えるドナですが、彼女がふっと魅力的に見える一瞬があるのです。キャラクターを丁寧に描写し、全ての登場人物に華を持たせる演出は、なかなかにあなどれません。
予告編を観たときは、何だか日本のホームドラマのまんまみたいだなと思っていましたが、本編を観ると、それ以上の見応えとうれしい発見のある映画になっていました。「うちへ帰ろう」という邦題は大変に耳に心地よい語感ですが、実はこの映画の内容を正しく伝えてはいません。家族が一緒になればよいというお話ではなく、一人一人が自分の人生を生きていて、時には間違いをすることもあるけれど、それでもまたやり直せる、そんなことを感じさせる映画でした。
お薦め度 | ×△○◎ | ファミリー万歳かと思ってたらラストで泣かされました。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | 離婚の扱いが大変まっとうなところで点数高いです。 |
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