written by ジャックナイフ E-mail:64512175@people.or.jp
燃え盛る船から命からがら脱出した親子3人が流れ着いた先はジャングルの中。しかし、両親は豹に襲われて死亡、残された男の赤ん坊はゴリラ拾われてターザンと名づけられて成長します。見た目が他のゴリラと違うターザンはみにくいアヒルの子状態でしたが、それでも立派な若者に成長します。そんなジャングルに、ゴリラ研究の博士と娘、そしてその護衛という怪しげな男が現れます。ターザンは自分と同じ姿形をした連中を見つけて、彼らに進んで接触し、博士の娘ジェーンに恋心を抱くようになります。しかし、その連中がジャングルにもたらしたものは、平和でも友好でもなかったのです。
予告編では、フィル・コリンズの主題歌が高らかに鳴り響き、ジェットコースターのようにジャングルの中を疾走するターザンがものすごくかっこよくって興奮させられました。本編の方も導入部分を難破シーンからターザンがゴリラに拾われるまでを、フィル・コリンズの主題歌にのせて一気に見せます。もう、その絵とコリンズの歌だけで感動モノのオープニングです。導入部だけで泣かされたのは「ノートルダムの鐘」以来ですが、勢いがあるのですよ、この映画、だてにドラムがドコドコ鳴っているわけではないのです。
ゴリラに拾われた主人公が群れの中になかなか溶け込めないあたりも丁寧に描くことで、人間を見た時に、自分と同じ姿の連中に心ひかれるところの説得力が出ました。そして、自分がゴリラか人間かという葛藤を見せるのかと思いきや、そのあたりはあまり深入りはしません。映画としては、一見友好的に近づいてきた連中が悪者だったので、それをやっつけてターザンはジャングルに戻るという単純なストーリーになっています。
アニメーションの動きはさすがに見事です。特にジャングルの中のアクションシーンの多い作品だけに、CGがフルに活用されていて効果を上げているようです。一方、人間側のキャラクターはかなりマンガチックにデフォルメされたキャラクターになっていて、ジェーンも美形ヒロインというよりはかわいいキャラクターになっています。動物側のキャラクターの方が人間よりも奥行きのある描かれ方をされており、細かい感情表現がされてますし、人間並の葛藤するキャラタクターとなっているのが、興味深いところです。オープニングでの、ゴリラとターザンの出会いのシーンもゴリラ側を人間臭く、ターザンの方を動物っぽく描くことで、ドラマの主軸が動物側にあることを見せます。普通の視点を逆転させて、人間を異端として描いているわけです。その異端者が自分の同類を見つけて仲良くしようとして裏切られ、最後は古巣に戻ると古巣は異端であったはずの彼を暖かく迎えるのでした、というストーリーです。うがった見方をすれば、ゴリラの群れがアメリカ社会で、ターザンを海外からの亡命者と考えるとなかなかに面白い図式が見えてきます。
なぜ、そんな見方に傾いたかと申しますと、これまでのディズニー映画では、大体、文明とか社会というものを最後には肯定的に描き、多少のすったもんだはあっても主人公は社会の中に溶け込んでいくというストーリーになっていたからです。ところが、今回は、そうはなりませんで、主人公は、人間社会に背を向けてしまうのです。これは「ノートルダムの鐘」にも「ムーラン」にも「ポカホンタス」にもない視点です。みにくいアヒルの子が、白鳥になったあと、結局白鳥に愛想を尽かして、アヒルに戻ってしまうというのは、なかなかにユニークな視点だと思いました。また、これまでは、「美女と野獣」でも「ノートルダムの鐘」でも、普通の人間と見かけの違うものを異形のものとして描いてきたディズニーアニメが、今回は、人間以外の動物たちを、人格を持った、人間以上の存在として描いています。これは、ディズニーの新しい展開なのかもしれません。
声の出演では、グレン・クローズがうまくて、後、ロジー・オドネル、ウェイン・ナイトといった面々が達者なところを見せています。映画をリードする音楽は、フィル・コリンズと「スピード」のマーク・マンシーナが担当しまして、テンポのよさで、ドラマを引っ張り、要所要所をコリンズのボーカルが締めているという印象でした。
お薦め度 | ×△○◎ | シンプルなストーリーで感動もあり。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 人間<動物 の構図はディズニーにはちょっと意外性あり。 |
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