written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
カナダはモントリオールで若い独身男性を狙った連続殺人事件が発生します。レクレア警部(チェッキー・カリョ)はFBI特別捜査官イリアナ(アンジェリーナ・ジョリー)に協力を依頼します。犯人は被害者の顔を潰して、手首を切り取るという、いわゆるサイコキラー。イリアナも死体の発見場所に横たわって瞑想したり、犠牲者の写真を部屋じゅうに貼りまくったりする結構変な奴。犯人は、誰かを殺してはその被害者になりすますことを繰り返しているらしいことがわかってきます。そんな時、またしても事件が発生、今回は目撃者がいました。画商のコスタ(イーサン・ホーク)は尋問ではおかしなところはありませんでしたけど、どこか謎めいています。でも、そんなコスタにイリアナは魅かれていくのです。しかし、コスタを狙う影がいよいよ彼に迫ってきました。
連続殺人鬼と捜査官との闘いを描いた映画は数多くありまして、この映画もその1本ということになります。よくあるのは、最初に捜査官と犯人が因縁づけられているとか、捜査官の身近に犯人がいるというパターンです。「テイキング・ライブス」はそのパターンの変種とも呼べるものでした。意外性やどんでん返しといった仕掛けはあまりないのですが、それでも最後まで楽しめるのは、登場人物のキャラで見せる映画になっているからでしょう。脇にオリヴィエ・マルティネスやキーファー・サザーランド、ジャン・ユーグ・アングラードといった曲者役者を揃えたのも、ドラマの面白さの一因になっています。
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この先はドラマの結末に触れる部分がありますのでご注意下さい。
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ヒロインのイリアナは、登場シーンが死体発見現場に横たわっているという、かなり変な奴です。その変なキャラぶりが、犯人との駆け引きの中で、彼女とサイコキラーの距離を縮めてしまうという見せ方が新鮮でした。コスタに魅かれてしまった自分に自信をなくしたヒロインが、レクレア警部に捜査からはずれたいと申し出るあたりのプロフェショナルぶりと、惨殺死体の写真をホテルの部屋の目に付くところに貼りまくるセンスのギャップがなんとも不思議なアンバランスな感じがしました。FBIの捜査官ってホントにこういうことするんかな。ヒロインのちょっと変なキャラは、ラストの後日談のオチにもつながっているのですが、アンジェリーナ・ジョリーがこういう複雑なキャラを演じきるのには荷が重かったような気もします。強いんだか弱いんだかよくわからない、賢いんだかバカなんだかよくわからないキャラクターを演じきるには、ジョリーはパーフェクトっぽいんですよね。だからこそ、「トゥーム・レイダー」なんかは適役適演だったのですが。
D・J・カルーソーの演出は、ホラータッチやショック演出には、なかなかうまいところを見せていますが、サスペンス部分の盛り上げにはあまり成功してはいないようです。犯人探しに関しては、とにかく登場した時から、一番怪しいのがコスタなので、この男の正体の見せ方がドラマのポイントになってくるのですが、ここはかなり成功しています。その二転三転する構成は脚本と役者の力に負うところ大だと言えましょう。でも、演出が淡々としているので、サスペンスの盛り上がりどころがなかったのが惜しいところです。ラストの後日談も、それまでの展開から大体先が読めてしまうので、もっと手際よくさばいた方がよかったように思います。また、残念ながら、映画の題名にもなっている「他人の人生を乗っ取る」という犯人の行動が描写しきれていないため、殺したからって、そう簡単に被害者になりきれるもんじゃないという疑問点は最後まで残ってしまいました。日本だったら絶対無理だと思うのですが、カナダやアメリカみたいな広い国だとそういうことも可能なのかしら。
全体として、ヒロインと犯人の闘いを中心に見せようとしているように思われるのですが、サイコキラー的な展開もあり、どんどん返しを見せようとしているふしもあって、映画としての焦点が曖昧な印象を持ってしまいました。まあ、よく言えば盛りだくさんとも言えまして、豪華キャストの好演もあって、なかなか楽しめる映画になってはいます。ちょっとだけ見せるカーチェイスも迫力ありましたし、カナダの冷え冷えとした空気感も伝わってきますし、娯楽映画としてのモトは取れる作品になっています。惨殺死体をモロに見せたりもしているのですが、悪趣味にならないギリギリのところでうまく止めていまして、ショック演出も下品にならない節度は感じました。とはいえ、そういうシーンがあるので、年寄り子供にはオススメできないのですが。(後、ヒロインも脱いでるし)
フィリップ・グラスが、オーケストラを重厚に鳴らしてまして、最近のサスペンス映画とは一線を画しています。昔はこういう音楽がオーソドックスだったのですが、打ち込みやハンス・ツィマー一派のオーケストラぶん回しサウンドが主流になってしまっている昨今は、逆に新鮮に聞こえてしまいました。これはサントラ盤が出てないようなのが残念です。
お薦め度 | ×△○◎ | 展開の意外性はなくても結構面白いのはヒロインがちょっと変だから。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | サイコキラーものの変化球、役者を揃えたのが勝因かな。 |
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