written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
天才ハッカー、スタンリー(ヒュー・ジャックマン)は、エキセントリックな謎の男ガブリエル(ジョン・トラボルタ)に雇われて、ウィルスプログラムを作る仕事を引き受けます。離婚した前妻に娘を奪われ、裁判で勝訴するための金欲しさもあって、スタンリーはまた犯罪に手を染めることになるのですが、これが政府機関の億単位の裏金をかすめとろうというビッグなプラン。しかし、ガブリエルという男はどっかアブナい雰囲気で、只者ではないらしい。そして、彼の取り巻きの一人であるジンジャー(ハル・ベリー)は自分が麻薬捜査官であることをスタンリーに打ち明けます。そして、いよいよウィルスが完成し、でかいヤマは本番を迎えるのですが。
この映画、オープニングが印象的です。アップのジョン・トラボルタが映画「狼たちの午後」の話をしています。そして、カメラが引いていくと、そこは人質をとってたてこもる銀行だったという展開が意表を突きます。そして、派手な見せ場があって、物語はそこにいたるまでを回想形式で描いていきます。その展開はなかなか先の読めないもので、一体、何が始まるのか肝心なところがわからないところもサスペンスを呼び、それがクライマックスで大仕掛けな見せ場につながっていくあたり、ドミニク・セナの演出は快調です。徹底してアブないキャラのガブリエルと、誠実なスタンリーという二人のコントラストもうまく描かれてますし、脇のキャラクターも印象的な面々を揃えて、ドラマに厚みを与えています。
少しネタバレになりますが、この映画は騙しのトリックを売り物にした映画でもあります。予告編でもそういう売り方をしていますし、映画の中でも、ハリー・フーディニを引き合いに出したりしています。ですから、映画の結末で、ああそういうことだったのかと観客が思うような仕掛けになっているのですね。そこまでずっとグレーだった部分がクリアになるところで、観客としては、見事なマジックを見せられたような、騙されたカタルシスを得ることになる筈でした。筈でしたというのは、実はそのラストでずいぶんと点数を下げてしまったのです。妙な小細工をせずに、時間軸も一本にしてストレートな展開にしてしまえば、それで結構楽しめる娯楽アクションになったと思うのですが、その妙にひねった仕掛けの為に、逆に展開のアラが際立ってしまいました。単なるノー天気なアクションだったら気にならない部分が気になってきたのです。
詳細までは書きませんが、この物語はガブリエルという悪魔的な天才が立てた犯罪プランにスタンリーが巻き込まれる、その巻き込まれ方に仕掛けがあったのです。ということは、全ての展開がガブリエルのシナリオに沿って動いていたということになるのですが、その完璧な筈のシナリオが、全貌がわかってから思い返すとこれが穴だらけ。こんな偶然に頼ったプランでは、ガブリエルって大して頭よくない、単なるハッタリオヤジにしか見えないのですよ。「マトリックス」のような絵で爆破シーンを構築したり、奇想天外な脱出を試みたり、目くらまし的な映像でごまかしきってくれればよかったのに、ラストで観客にそれまでの展開を反芻させるものだから、粗っぽいストーリーに無理矢理気付かされてしまったという感じです。同じネタでも、見せ方次第で、「結構面白い映画」になったのですが、ラストでケチをつけたというところでしょうか。その結果、役者と視覚的仕掛けが勿体無いという結果に終わってしまいました。
全てがガブリエルのシナリオ通りに動いていたということを、最後で納得できないと、この映画は後味が悪いものになってしまうのですが、そこで説得力が出なかったのは、この映画の脚本の責任でしょう。頭使わない映画なら、これでも許容範囲かもしれません。でも、観客に頭使わせる映画としては、こんなずさんなプランでハイリスクな犯罪にトライするのは、観客をバカにしてると言えましょう。折角、トラボルタを極端な愛国者に設定して、テロもアンチ・テロも極端に走れば同じようなものだという見せ方が面白かったのに、その面白さも、うまく伝わって来ませんでした。
とはいえ、この映画、結構いいところもありまして、最近の映画にしては珍しく、徹底的な悪役を設定したこと、対峙する主人公に人間味を持たせたこと、アクションシーンに工夫を凝らしたことなど、娯楽映画としてのツボはきっちりと押さえています。
だからこそ、ラストの変化球は余計で、全編直球勝負してくれたら、もっと点数が上がったのが、残念でした。
お薦め度 | ×△○◎ | 客をだまそうという割には、要所要所が甘いんだな、これが。 |
採点 | ★★★ (6/10) | ストレートな作りにした方が面白かったんじゃない? |
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