スーパーサイズ・ミー
Supersize Me


2004年12月12日 神奈川 横浜ニューテアトル にて
マクドナルドだけを一ヶ月食べ続けたらどうなる?って試すなよ!


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


アメリカの健康問題において肥満は避けて通れない大きな課題です。そして、その原因の一つは食生活にあることはあきらかで、さらにファーストフードの普及と浸透が肥満(=健康破壊)の大きな原因であると言われてきています。でも、それは法的には立証されておらず、肥満の原因としてファーストフードを訴えることは法律で禁止されるようにもなってきています。そこで、試しに一ヶ月間、マクドナルドのメニューだけで生活したら、どうなるか試してみようということになりました。監督自らそのモルモットを買って出たのですが、これがなかなかに大変でして、心と体がおかしくなってきちゃったのです。

アメリカには行ったことないのですが、映画なんかで観る限り、ハンバーガーにしてもアイスクリームにしても何でもでかい。あんなのを日常的にホイホイ食べてたら、そりゃ太るよなあって思っていたのですが、やはり、アメリカでは肥満が社会問題のレベルにまでなっているようです。まあ、単に太ってるだけなら、容姿の問題だけなのですが、実際には糖尿病やら肝不全やらの原因として命にかかわる問題になってしまうのです。実は私も人間ドックで脂肪肝だと宣告されていまして、他人事ではないのです。

特にファーストフードはカロリーが高いし、どこにでも売ってるし、肥満への一番の近道であり、肥満の大きな原因にはなっているでしょう。ところが、その因果関係は法的には立証されておらず、肥満の原因としてマクドナルドを訴えた少女たちがいたのですが、結局裁判には勝てませんでした。じゃあ、実際にマクドナルドばかり食べ続けたらどうなるかというバカな考えをこの映画の監督は実際に試してみることにします。まあ、結果、血液はおかしくなるし、体重は増えるし、肝臓がおかしくなるという、想像以上の成果(?)を見ることになります。まあ、1日3食をマクドナルドで食べると、1日で5000カロリーも摂取してしまうらしいので、それだけでもう健康を害してることになりますし、1日の歩数を2,000歩に押さえる生活をするということで、運動不足の状況も作り出していますから、体が変になって当然ではあるのです。でも、たった30日で精神と肝臓がかなり危機的状況になってしまったのですから、少なくとも、体にいいとは言えないようです。

精神面では、気分が落ち込んできたり、食べることで落ち着くなど、ある種の中毒症状が出てきますし、肝臓はアルコールの過剰摂取と同様の状態になってしまうのですから、かなりヤバイと言えましょう。特に、他のものを食べたいと思うことでバランスを取れるはずが、マクドナルドを食べないと落ち着かないような精神状態になるというのが怖いです。恐るべき人体実験とも言えますが、まあムチャ食いしてるというのも事実でして、それだけなら、単なるキワモノ企画とも言えます。

しかし、この映画では、ファーストフードの周辺に色々な観点から斬り込んでいくことで、アメリカの食生活の問題点に肉迫していきます。例えば、子供への広告宣伝の効果、それによる刷り込みといったことは、言われてみれば、日本でも似たような感じになってると思いましたもの。また、ドリンクやポテトのサイズが当初販売されていたものから、どんどん大きいものが出てきているということも、改めて認識しました。これは企業の売らんがなの姿勢だと言われても仕方ないでしょう。日本だと、もっと巧妙にやり方でやってます。コーラの500mlのペットボトルなんていい例でしょう。昔はファミリーサイズと呼ばれ「3杯飲んでまだ余る」という宣伝文句だったのですが、それが今や一人用のサイズになってしまっています。シネコンやファーストフードで売られているコーラヤポップコーンのLサイズだって、子供にはどう見てもでかすぎです。

子供の健康について考えれば日本だって、この映画は他人事ではありません。アメリカの学校給食にも食品業界が進出著しく、それ自体は別に悪くないのですが、カフェテリア形式で選ぶ食事で、昼食はお菓子だけという子供が、学校給食という環境の中で出てきているのです。一方で非行生徒の更生施設で、野菜中心の手作り給食で成果を上げているところも見せます。この映画が、子供の食生活について食品産業からの切り口で斬り込んでいる点は高く評価したいと思います。子供の食生活というと家庭に責任を押し付けてしまうことが多いのですが、マクドナルドのCM戦略や、学校給食への食品産業の関わりを見れば、家庭の責任だというのは食品企業のメディア操作ではないかと思えてきます。

一ヶ月、マクドナルドだけで暮らすというバラエティネタを前面に出してはいますが、中身としては、肥満にあふれたアメリカと、子供の食生活への危機感が語られてるところに、この映画のしたたかさとマジメさを感じました。そして、解決策を提起できなくても、今という時間をこの観点から残しておくということは大変意義のあることのように思えます。今が、食品産業の飽和期にあるのか、変化の時期にあるのかは後世の判断にまかせるしかないのですが、その時にこういう視点の映画があるということが、時代の証言として重要な意味を持つように思えます。確かに意図を持った映画ではあるのですが、その意図を超えた存在意義を感じさせるものがありました。


お薦め度×バカじゃないの?とツッコミつつ観ながら、ちょっと感心したりして。
採点★★★☆
(7/10)
反マクドナルドの映画ではない問題提起には好感。

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