夏休みのレモネード
Stolen Summer


2003年07月16日 関内 関内MGA2 にて
カソリックだろうがユダヤ教だろうが天国へ行ける、信仰があれば。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


オマリー家は8人の子供がいるアイルランド系カソリックです。小学生のピートはカソリックの学校でシスターに怒られてばかり。夏休みに一念発起して、やろうと思い立ったことが何とユダヤ教の人をキリスト教に改宗して天国へ行かせてあげようということ。そして、実際にユダヤ教のラビのところに行ってしまいます。ラビのジェイコブセン(ケビン・ポラック)はピートの心根の純粋さを素直に受け入れてくれます。でも、父親(エイダン・クイン)は大人の分別で猛反対。そして、ラビの息子ダニーが白血病であることを知ったピートは、ダニーが天国へいけるための試練を勝手に作って、一緒に遊びまわっていたのですが、ダニーの病状は思わしくなかったのでした。

私が映画の中で、素直に受けれがたいものが二つあります。一つは子供。子供を使って泣かせる映画というのは、時に本当に泣かされてしまうこともあるのですが、とにかくあざとさが感じられて、素直に感動できません。もう一つは宗教でして、宗教の独善性、排他性は信じている当人が純粋であるほど、そのように仕向ける聖職者の偽善性を感じてしまい、どうにも苦手なものがあります。そして、この映画は、子供が主人公で、かつ宗教(正確には信仰)がキーワードということで、「大丈夫かなあ」という半信半疑でこの映画に臨みました。

ところが、これが大感動の一品になっていたのに驚かされてしまいました。敬虔なカソリックであるオマリー家の息子ピートと、ユダヤ教のラビの息子であるダニーの友情物語が中心ではあるのですが、そこに宗教というものを尊重しつつ、相互を否定しないという関係を築いているのです。そして、それは単に子供達の関係だけでなく、大人たちも節度を持って二人の少年を見守るのです。だからといって完璧な美談ではなく、きちんと人間の弱さや頑なさも描かれています。時には、ダニーにつらくあたってしまうときもありピート。ユダヤ教を否定しない分別を持っている父親が、ラビからの金銭的な援助の申し出に思わず感情的になってしまうところ。普段は穏やかなラビが一人になって息子の病状を想い取り乱してしまうところなど、きちんと生きている人間をそのままに描こうという姿勢が大変好感の持てるものになりました。

特に主人公一家の生活ぶりが丁寧に描かれていまして、消防士の父親に子供が8人、裕福じゃないけど、そこそこにいい家庭。父親は頑固者で、母親がやさしくて強い。父親は長男が進学したいと言う希望には懐疑的で、すぐに働くべきだと思っている。長男としては、進学して医者になりたい、映画のサブプロットとして描かれる普通の家庭の有り様は、良くも悪くも物語にリアルな重みを与えています。

ピート・ジョーンズの脚本・監督のデビュー作だそうですが、自身の脚本を映像化したとは思えないほど演出は抑制が効いており、愁嘆場とか感情のテンションが高まるところを、さっさと流すことで、ドラマに静かな説得力を与えることに成功しています。物語がいわゆる死病ものに転んでもおかしくない設定なのに、泣き喚くドロドロのシーンの一切見せない思い切りが、この映画を一人の少年と二人の父親の成長物語のように見せて、観終えた後味を大変心地よいものにしています。

特に感心したのは、キリスト教とユダヤ教のどちらにも、うまく華を持たせているところです。懐の深いユダヤ教のラビの存在に対して、カソリックのピートの父親はやや偏狭な考え方をしてしまいます。でも、ラストで主人公がラビを励ます言葉はキリスト教の牧師の言葉の引用なのです。この「Faith!」というセリフに大泣きさせられてしまったのですが、なぜこの単語一つで泣けるのかは、本編でご確認いただきたいです。

子役の演技というのは、うまいとかヘタとか議論したくないのですが、それでもこの映画のピートとダニーは大変自然な演技を見せています。唯一の愁嘆場のシーンでもさっと画面が切り替わってしまうので、あざとさを感じさせませんでした。それよりも、やはり大人の演技陣がこの映画を支えていると申せましょう。父親役のエイダン・クインは最初ガンコ親父風に登場しますが、その一本筋の通った男気のようなものが感じられ、人として敬意を表するに値する人物になっているのが見事でした。また、ラビを演じたケビン・ポラックが善意の人を熱演しており、善意を持ち続けようとする頑張りの部分も垣間見せることで、リアルな人間としての奥行きが出ました。ラスト、この二人が視線を交わすところが、また泣かせるのですよ。また、ピートの母親をボニー・ハントが貫禄の肝っ玉母さんぶりで好感度大でしたし、カソリックの牧師をブライアン・デネヒーが権威と寛容の両方を短い出番の中でうまく表現していました。

この映画が、宗教という神様のテリトリーの垣根を外しても、信仰は存在し得るという見せ方になっているところに、9.11ニューヨークテロ以降の作品であることを感じさせました。あの事件が宗教戦争であるかのような見え方をしたために、宗教に対する差別が発生したことを思い出してしまいました。ともあれ、私のような無宗教な人間にも、信仰の意味や価値を感じさせてくれる映画ですので、一見をオススメしたいです。


お薦め度×子供の物語だけど周囲の大人たちをきちんと描いて説得力大。
採点★★★★☆
(9/10)
他人の痛みを思いやる気持ちが伝わってくるところが泣けます。

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