written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
近所のパーティの席で、義姉(イレーナ・ダグラス)から催眠術をかけられたトム(ケビン・ベーコン)はその後から妙なものが見え始めます。最初は誰かの記憶のフラッシュバックだったのですが、ついに自宅で見た事もない若い女の子の姿を見てしまいます。実はその女の子は家出して行方不明になっていたことがわかります。その女の子が何かをトムに知らせようとしているようです。一方、妻のマギー(キャスリン・アーブ)はそんな夫の変化に気付いて、何とかしようとするのですが、段々と夫婦仲はうまくいかなくなってきます。さらに、息子のジェイクにもその女の子が見えるらしくて、マギーはますます孤立感を深めます。そして、トムはその女の子に導かれるまま、家中を掘り返し始めます。正気を失いつつあるトム、果たしてトムとジェイクにだけ見える女の子は何を伝えようとしているのでしょう。
まともな心霊スリラーという評判であり、原作が「ヘルハウス」「激突」のリチャード・マチスン、脚本・監督が「シークレット・ウィンドウ」のデビッド・コープ、主演がケビン・ベーコンとくれば、面白そうな映画だと期待してしまいます。しかし、これ実は1999年の映画でして、ちょうど「シックス・センス」と同時期にアメリカ公開され、日本ではずっとお蔵になっていた映画なのでした。まあ、6年前の映画だって面白ければいいわけでして、シネパトス単館公開にするには惜しいなかなかの佳作と言える映画に仕上がっていました。
この映画の主人公は所謂「見える人」です。何が見えるって、いわゆるアッチの世界の人、幽霊なのか妖怪なのかよくわからないけど、ともかく普通の人には見えない皆様が、トムには見えてしまうのです。普通の貸家に住むあまり裕福じゃない3人家族。そこで、たまたま見えるようになってしまったトムが家庭に波風を立ててしまうというのがメインのお話です。いわゆる心霊現象を追求したりするよりも、普通の人が見えるようになっちゃったら大変だよなあってところを丁寧に描いています。日々の生活の中に劣等感とやるせなさを持っているトムと、日々のささやかな幸せの価値を見出そうとするマギーが、この能力を発端に衝突してしまうあたりのリアルな肌触りは主演二人の好演もあってなかなか見応えのあるものになっています。また、近所の人々の描写とか、電車の高架がすぐ近くにあるという設定などが、普通の生活感を丁寧に汲み取っていて、そこに心霊現象が持ち込まれると、非日常的な怖さよりも、日常的なトラブルとして感じられてくるあたりが面白いと思いました。
もともと幻覚だと思っていた女の子が、行方不明だとわかってくるにつれ、この女の子は幽霊なんじゃないかと思えてきます。そして、その幽霊の訴えるものにトムは耳を傾けようとします。このあたり、言葉で説明しきらないで、彼の行動で、だんだんと幽霊にのめり込んでいくのを見せています。幽霊にとりつかれているにしては正気、でも普通じゃないという主人公の精神状態をケビン・ベーコンが達者な演技で見せます。「インビジブル」のようなエキセントリックな演技ではなく、普通の人が、あるきっかけで常軌を逸する寸前まで行くあたりを、ギリギリのところで普通の人として見せきることに成功しています。特に、アメリカの中の下くらいのところで、日々をかつかつとやり過ごしていた主人公が、この幽霊との関わりで、充実感というか生きがいのようなものを感じ始めるというのは、
そして、女の子が訴えていることが段々とわかってくるに連れて、映画はミステリーの展開を見せます。デビッド・コープの演出は、サスペンスはあまり得意ではないのか、ドキドキハラハラよりも登場人物をじっくりと描く方に力点を置いており、事件の決着よりも、その後、幽霊が満足(?)しているらしい様子をきちんと見せた方が印象的でした。とはいえ、主人公の見る予知夢の絵解きにはなかなか感心させられるものがありました。
私は幽霊とか霊現象に遭遇したことがないのですが、普通の人に見えないものが見えるってのは大変だろうなあって思います。トムが「これは夢なのか現実なのか」と悩んでしまうシーン、またマギーが「夫と子供に見えるものが見えない」疎外感にさいなまれるシーンなど、下手にこういう能力を持つと、外界とのコミュニケーションが取れなくなってしまうのではないかという怖さがよく出ていたように思います。トムよりももっと色々なものが見えてしまう息子の今後が気がかりですが、そこにもう少し、気配りが欲しいと思いました。その他にも気になったのが、そもそも催眠術をかけて、トムの潜在能力を開花させた義姉が結構無責任なのが不愉快でした。自己責任の世界なのかもしれないけど、見えない人に暗示をかけて見えるようにしちゃったおかげで、家庭崩壊して命まで危なくしちゃうのですから、たまったものではありません。
幽霊の出てくる話としては、因果応報的であり、アメリカ映画にありがちな暴走してムチャする幽霊でないところが珍しいと思いました。ラストで一応の決着を見ると、幽霊は去っていくあたりのジェントルぶりも好感が持てました。最初に登場するときはかなり不気味なルックスだったのがラストにはちょいとかわいい女の子くらいに見せるあたりのセンスは買いたいです。
お薦め度 | ×△○◎ | ♪見えすぎちゃって〜、困るの〜(古すぎて誰もわからない)。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | まっとうなホラー。幽霊もムチャしなくて、そこそこ礼儀正しいし。 |
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