ステップフォード・ワイフ
Stepford Wives


2005年02月13日 神奈川 TOHOシネマズ川崎2 にて
引っ越してきたはいいけど、この町の奥さんみんな変。


written by ジャックナイフ
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大手テレビネットワークの敏腕プロデューサー、ジョアンナ(ニコール・キッドマン)は自分の番組でコケにされた男が銃を発砲したことからクビになり精神的に大ショック。夫のウォルター(マシュー・ブロドリック)と二人の子供を連れて、転地療養も兼ねてステップフォードという町に引っ越してきます。この町は妙に整然としていて、生活は平和そのものなんだけど、何だか変。町はクレア(グレン・クローズ)とマイク(クリストファー・ウォーケン)の古参夫婦に牛耳られているみたいだし、この町の奥様方ってきれいなんだけど没個性というか、ある種の理想の奥様になっちゃってます。そして、町で知り合った数少ない気心の知れた友人ボビー(ベット・ミドラー)たちまでおかしくなってくるのです。

1970年代に書かれたアイラ・レヴィン原作のスリラーをフランク・オズ監督がコメディタッチにまとめました。タイトルバックが1950年代の近代的な生活を描写した映像でして、これが展開のネタ振りになっています。そして、オープニングはジョアンナが自分の作った番組をでかい舞台で紹介するところから始まります。聴衆のほとんどは女性陣でして、ジョアンナの作る番組は男性をコケにしたようなのばっかり。まあ、女性をターゲットにするなら、虐げられる女性よりかは男どもをギャフンと言わせる方が数字は稼げそう。でも、発砲事件がもとでジョアンナはクビになり、テレビ局では彼女より格下であった夫のウォルターに勧められて、ステップフォードという町に引っ越してきます。ところがこの町が、何だか1950年代風の奥様ばっかりで、みんな馬鹿っぽいというか、ボヨヨーンとしてるのです。そんな中で世話焼きばあさんみたいなクレアだけがやけに元気なのです。

この先はネタを割っちゃいますから、これからご覧になる予定のある方はパスして下さい。

実はこの映画、今となっては古風ともいえるSFネタでして、奥さん方は、ダンナの理想の女性に改造されていたというお話で、マジにやったらスリラー映画になる題材です。テレビのリモコンみたいなので操作されちゃうというのですから、ほとんどロボットみたいなものです。ですから、映画はそれをどんでん返しのように扱うことはあえてせず、むしろそのネタをセリフと役者の面白さでコメディにまとめていまして、それは実際成功しています。

特に、微妙に豪華なキャスティングが面白さの鍵になっています。ニコール・キッドマンはやり手のキャリアウーマンとオールドファッションな奥様の両方が絵になる美形ですし、マシュー・ブロドリックのいかにもなショボくれ度とうまい対をなしています。このショボくれ加減がラストの展開を読ませないのがうまいと思いました。グレン・クローズとクリストファー・ウォーケンの夫婦なんて怪しさ満点なんですが、さらにラストに捻りが入って、ああなるほどと思えるベストなキャステングになっています。さらに脇に、ベット・ミドラーとかロジャー・バート、ジョン・ロビッツといった達者な面々を揃えて、最後までコミカルな味わいを維持しています。

この町に集まってくるのが、できる奥さんと結婚したために肩身の狭い思いをしてるダンナ達というのが、妙におかしかったです。この原作が書かれた1970年代だったら、女性進出の過渡期でしたから、その中である種の懐古趣味的な発想から、昔の夫婦関係だったらよかったのにという発想も出てくるでしょう。ですが、今の時代では、できる妻にダメな夫なんていう関係はザラですから、こんなふうにカミさんをロボット化しちゃおうなんて発想にはならないでしょう。もはや、既得権も持たない夫にとって、現状の夫婦関係がミジメだという発想すら思い浮かばないのではないかしら。実は、「昔はこういう夫婦関係もあったんだよ、若い人たちは知らないかもしれないけど」という懐古趣味を啓蒙する映画なのかもしれません。現状の夫婦の関係が混沌としているのに比べたら、夫婦の役割分担が明確だったあの頃はよかった、と言いたげに見えてくるのですよ。

1970年代に作られた同じ原作の映画はもっと怖くてラストも救いがなかったようです。まあ、あの頃は世界的にペシミスティックな雰囲気があったからというのも事実なんでしょうけど、それ以上に、女性進出を潔しとしない男たちがいて、そいつらに「じゃあ、こんな世界がいいのかい?」というアンチテーゼを突きつけたのではないかと思うわけです。でも、同じ題材を今の時代でやると、「こういう世界を望んじゃいけないのかい?」というふうに見えてくるのが大変面白いと思った次第です。時代の価値観が変わると、同じ題材でもまるで逆の意味を含み始めるというのは、ちょっとした発見でした。1950年代の価値観で思い出すのは、昨年の「モナリザ・スマイル」ですが、あの映画だって、革新的な考え方と保守的な考え方を平等に並べてみせて、その結果、保守的な方を目新しく感じさせたのです。

21世紀はあらゆるものが細分化、個別化されているけど、それに対して、改めて昔の文化を見直そうという考え方をこの映画は根底に持っているように思います。それ自体は一つの提案として悪くはないのですが、無意識のうちに人心を操作しようとしているのかもしれないと思うと、気をつけなくちゃという気分にさせられるのでした。


お薦め度×その昔のアメリカを懐古してるようなスリラーコメディ。
採点★★★☆
(7/10)
いろんな意味で滅法面白い。「モナリザ・スマイル」とセットでどうぞ。

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