written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ピーター(トビー・マクガイワ)は日々のバイトと学業の両立に汲々とした日々を送っています。その上、スパイダーマンもやってるもので、バイトも学業もおろそかになりがちです。幼馴染のメリー・ジェーン(キルスティン・ダンスト)は彼のことが好きなんですが、その想いに応えない彼にしびれを切らして、宇宙飛行士と婚約してしまいます。一方、核融合の権威オクタヴィウス(アルフレッド・モリーナ)が公開実験の場で、器械が暴走し、最愛の妻も失い、機械と合体したドックオクという怪人と化してしまいます。スパイダーマンは果たしてドックオクを倒すことができるでしょうか。そして、メリー・ジェーンは他の男と結婚してしまうのでしょうか。
前作に引き続いて同じスタッフキャストで作り上げたアメコミの実写映画版です。監督のサム・ライミは「ダークマン」で過去とハンディを持ったヒーローを作った人ですが、今回も、前作以上にドラマを盛り上げることに成功しています。原作のアメコミがどういうものはよく存じ上げないので、スパイダーマンというと、その昔、日本のテレビで放映された、日本版の変身特撮ヒーローのイメージがあります。子供向きのロボットまで登場する内容でしたが、それはそれで結構楽しかった記憶があります。こっちはでっかい予算をかけたハリウッド大作ですから、比較するのも野暮なんですが、それでも、変身ヒーローのイメージってのはついてまわります。
しかし、この映画の主人公の境遇は、変身ヒーローというには、あまりにもシビアです。日々の生活がうまくいってないし、彼女との関係も停滞中で破局が近いし、スパイダーマンになっていい事するとムチャクチャくたびれるしと、公私共にヨレヨレの状況です。でも、ヒーローである理由は「大きな力には責任が伴う」からという崇高なもの。その理念と実際の暮しとのギャップに耐えかねて、ついにはスパイダーマンを廃業しようと決心するという、考えようによっては、「深い」とも「所帯じみてる」とも受け取れる葛藤を見せてくれます。深いと思うのは、倫理観との妥協できなくなった聖人の物語とも受け取れるからですが、そんな崇高な話をスパイダーマンのカッコしてやることはないじゃないかという気もしてしまうのです。そして、そういう風に感じてしまうのは、自分の中に、変身ヒーローものに対するある種の偏見があるからかなとも気付いてしまいました。
その昔、昭和40年代に、大学生がマンガを読むということが、「情けない」とか「けしからん」と取り沙汰されたことがありました。ですが、今やマンガは文学と同じくらいのレベルの表現手段として認知され、そこでは、人生も宗教も哲学さえも語れるようになりました。アニメにしても、同様の進歩をしてきています。特撮変身ヒーローだって進歩したっていいわけでして、いつまでも、月光仮面をお手本にしなくてはいけないわけではありません。と、言いつつも、このドラマのような葛藤をスパイダーマンという枠の中で大真面目にやることはないだろうにと感じてしまったのです。多分、それはある種の偏見でしょうし、そういう文化の流れに自分が乗り遅れてるのかもしれません。でも、もっとノリのよい展開とスカっとする結末を期待してしまったのも事実なのです。ラストのピーターとメリージェーンの恋の顛末でやっと救われたような気もしますが、それでも、友人のハリーとの関係なんかは、より悪化しそうですし、まだまだ不幸が次々に襲ってきそうな予感で映画は終わります。
その予感の中でも、特に気になったのは、前作や本作を観ていると、不幸の結末は全て「死」によってしか決着がつかないと運命付けられているように見えるところでした。「死」によってしか解放されないという世界観はいかがなものかと思ってしまうのです。暗い世界を舞台にした「バットマン」シリーズでも、運命に翻弄される人々を描きましたが、「死」によってのみ全てに決着がつけられるというのはなかったように思います。同じ、ライミの「ダークマン」でも、ここまで死の匂いはしていませんでした。この映画に、見応えを感じつつも、心から堪能するに至らなかったのは、その死のイメージのせいだと後で気がつきました。単に登場人物が不幸なだけじゃない、関係者全員が天寿をまっとうできないというイメージがついてまわっているのです。これは、今という時代の視点で観るからそう映るのか、それとも、もともとの原作が持つ匂いなのか、それとも単に私の思い込みなのか判断がつかないのですが、何かどよんとした重い空気を感じてしまったのです。
演技陣はみな熱演してまして、特にドックオクを演じたアルフレッド・モリーナが圧巻でした。自信に溢れた愛妻家が、実験の失敗と妻の死から精神に異常をきたしてしまうというかなり極端なキャラクターに一本筋の通った人間味を出すことに成功しています。CG主体の視覚効果は、今や驚きを運んでは来ませんが、観客を物語の世界へ淀みなく引き込むことに成功しています。
でも、変身ヒーローものは、基本は勧善懲悪であって、そこにさらにドラマの仕掛けを積み上げて、面白く盛り上げるものだと思っています。基本にある勧善懲悪を取っ払ってしまったような今回のような作品だと、昔の変身ヒーローに馴染んだ人間は何か居心地の悪さを感じてしまいます。映画としても、お話としてもよくできているだけに、設定のイメージとのギャップ、そしてつきまとう不幸と「死」のイメージが気になってしまったのでした。
お薦め度 | ×△○◎ | 面白いんだけど、私の考える特撮ヒーローものとのギャップがでかくて。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | よくできてます。でも、ここまで死の匂いがつきまとうのは何故? |
|
|