ソラリス
Solaris


2003年06月30日 神奈川 川崎チネチッタ2 にて
連絡を絶った宇宙船で一体何が起こったのか。


written by ジャックナイフ
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精神科医クリス(ジョージ・クルーニー)に政府機関から連絡を絶った宇宙船の調査依頼がきます。惑星ソラリスの宇宙船のクリスの友人より、彼に調査に来て欲しいというメッセージが来ていたのです。ソラリスへ向かったクリスですが、そこは生存者2名を残し、2名が死亡、1名が行方不明となっていました。生き残った二人もそこで何が起こったのかくわしく語ろうとしません。そうこうしているうちに、彼の前に、死んだはずの妻レイア(ナターシャ・マケルホーン)が現れます。これは、幽霊なのか、幻なのか、しかし、彼女もクリスのことを知ってるようですし、でも本物の彼女は死んでいるのです。これはどうやらソラリスが作りだしたものらしいのですが、クリスは、だんだん、その妻に心を奪われていくのでした。

「オーシャンズ11」の監督スティーブン・ソダーバーグ、主演ジョージ・クルーニーのコンビによるSF映画のリメイクということになります。「ソラリスの陽のもとに」という小説をかつてソ連で映画化されていまして、それの再度の映画化となります。とはいえ、私はその原作も映画も未見ですので、まるっきりのおニューとして、この作品に臨みました。ただ、原作や前作を知っている人の評判はよくないという、予備知識はありました。

オープニングから、暗めの画面に精神科医のクリスが登場します。時代は未来なのか、小奇麗だけど殺風景な部屋で、政府の役人から、ソラリス調査の依頼を受けます。そして、舞台は即ソラリスに移り、問題の宇宙船にクリスが乗り移るシーンになります。そして、宇宙船の中も殺風景で狭苦しい感じ、というより、あまりリアルな宇宙船の中という感じがしません。そこで、生存者を発見し、自分の妻と出会うまで、ドラマは淡々と進んでいきます。聞こえるのは宇宙船のノイズだけ、ホラーとかサスペンス演出もなく、ここまでドラマ的な起伏を押さえ込んだ映画も最近珍しいのではないでしょうか。サスペンスコメディの快作になった筈の「オーシャンズ11」を淡々と撮ってしまったソダーバーグにとって、この題材は結構向いていたのかもしれません。

妻と出会ってからは、クリスの回想と現実の宇宙船の中の二人のやり取りがメインとなります。そもそも、この妻の正体が何者かということも、それを送り込んできたソラリスの意図についても、明らかにはされません。ただ、ここに来た人間の記憶の中から、そういう人間を実体化するらしいのです。クリスの記憶の中の妻がそのまま実体化されるのですから、クリスにとってそれは妻レイアそのものなのです。そして、レイアの方も自分の正体について薄々はわかっていて、実物ではない自分が、クリスを悩まし続けている事に耐えられなくなってきます。このあたりは、一風変わったラブストーリーの様相を呈してくるのですが、ここでも、ドラマ的な盛り上がりはなく、あくまで静かに物語は進行していきます。見様によっては退屈ということもできるのかもしれませんが、最近のSFXや活劇優先のSF映画が多い中では、たまにはこういう流れのゆっくりしたものもいいかなって気もします。その流れの中から、クリスは目の前に現れた妻の複製に対して、愛情と贖罪の念を感じていることがわかってきます。それは、彼女の死を自分が止めることができたかもしれないという、強い後悔があったからなのですが、果たして、クリスはレイアに対する罪の意識から逃れることはできるのでしょうか。そこは本編でご確認頂きたいのですが、彼の贖罪の物語として、一つの結末を迎えることになります。

宇宙というのは、基本的に静寂と時間だけがあるところです。ですから、その静寂と時間を前面に出してくる映画って、SF映画のある意味本質を突いているとも思うわけでして、この映画は、内容的にはSF映画とは呼べないのかもしれませんが、宇宙を描いた映画としては、そこそこ、マトを突いてるのではないかと思った次第です。映画は、ラストまで大きな盛り上がりもないまま、静かなエンディングを迎えます。全編がクリスの夢だったと言っても通りそうなお話なのですが、この不思議な時間と空間の描き方は、私には興味深いものがありました。ただし、人間の心の中のものを実体化するソラリスの意図が明確にならないのは、今一つ物足りなく、主人公の思いがあくまで元妻だけに向いていて、ソラリスに対する感情にならないってのは、つまらないように思えました。

視覚効果はシネサイトやリズム&ヒューズなど数社が担当しており、宇宙船やら、ソラリスの表面のシーンなどを創り出していますが、そのイメージにあまりインパクトはなく、ほとんど印象に残りませんでした。ソダーバーグがこの題材で何を描こうとしたのかはよくわからず、SFとしてもラブストーリーとしても中途半端な印象を与えてしまったのは事実ですが、物語を静かに見せようという姿勢は買いたいと思います。雰囲気描写として、シンセとオケによるクリフ・マルチネスの音楽が大変効果を上げていました。彼の無機質的な音楽がなかったら、淡々とした展開が、ただタルいだけのものに感じられてしまったように思います。ともあれ、静かで地味な映画でして、家でビデオで観るには不向きな作品です。劇場という非日常な空間で鑑賞することをオススメする次第です。


お薦め度×全体を包む静かな雰囲気、私は結構好き。
採点★★★
(6/10)
たまにはこういう映画もいいかなという気分。

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