スリーピー・ホロウ
Sleepy Hollow


2000年02月26日 神奈川 平塚シネプレックスシネマ8 にて
時代設定をうまく生かしたホラーミステリー


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


時は18世紀の終わり頃、ニューヨークの片田舎にスリーピー・ホロウという小さな村がありました。そこで起こった3件の連続首無し殺人事件。その犯人解明のためにやってきたのは理想が高くて偉い人と揉め事を起こすタイプのイカボット捜査官(ジョニー・デップ)。科学捜査を武器に事件に臨むのですが、村には首無し騎士の伝説があり、村の皆がそれを信じていたのです。そして、次々と犠牲者が増えていく中、イカボット君自身も首無し騎士を目撃し、もう捜査もへったくれもなくなるのかと、思いきや.....。

「バットマン」「シザーハンズ」「マーズ・アタック」などお金をかけたオタク映画を作ることで有名な、オタク監督ティム・バートン監督の最新作です。今回は18世紀末という近代のニューヨークの外れの村を舞台に「首無し騎士」の伝説に基づく猟奇殺人事件を描いていきます。それまでの犯罪捜査の方法ではなく、これからは証拠主義による科学捜査を行うべきだと主張する主人公イカボットが殺人事件捜査のためにスリーピー・フォローに乗り込んでいくところから物語は始まります。価値観の変換期であり、社会的不安も濃厚だという、世紀末という設定がうまく効いていまして、科学信仰のイカボットが段々とその幽霊伝説に取り込まれていくというのが面白い展開となっています。特に、イカボットと仲良くなるヒロイン、カトリーナ(クリスティーナ・リッチ)が神秘的な魔法(魔法陣とか薬草の類)を使うという設定が、主人公とうまいコントラストを作りました。

脚本を「セブン」「8MM」のウィリアム・ケビン・ウォーカーが書いていまして、世紀末の不安というものをこの映画の中にもうまく取り込んでいます。特に主人公が幽霊を目撃してヘロヘロになってしまってからが、意外な展開を見せていくあたりは、超自然ホラーでありながら、ミステリーとしても見応えがあります。クライマックスの風車小屋から、馬での追跡シーンなどはハラハラさせるスピード感がありますし、ご都合主義とも思えるラストの決着まで、色々なジャンルの面白さをうまく盛り合わせたというところでしょうか。

全体のトーンはいわゆる重厚な雰囲気の怪奇映画で、脇にマイケル・ガンボン、マイケル・ガウ、クリストファー・リー、イアン・マクダーミッド、ジェフリー・ジョーンズといったある意味で豪華な面々を揃え、銀色のフィルターをかけたような色使い、霧深い森、曇天の空などの視覚的な仕掛けが、レトロは恐怖映画の味わいを運んできます。村や森の中のセットなど、美術による雰囲気作りは見事でした。役者やセットの雰囲気がフランシス・フォード・コッポラの「ドラキュラ」に似ていると思ったのですが、今回、コッポラはこの映画の製作総指揮としてクレジットされています。

しかし、今回の映画はその昔の怪奇映画の味わいをパロディやオマージュとしてではなく、きちんと映画の素材として使っているという点が好感を持てました。視覚的な仕掛けはあくまで雰囲気作りだけにして、そこにミステリーとホラーを融合させた独自のドラマを構築することに成功しています。そして、ネタばれ覚悟で言ってしまうと、この物語の中で、首無し騎士の幽霊は実在しているのです。これは、ちょっと意外でしたが、その幽霊の存在を裏付ける空気というものが大変うまく描写されています。そして、首無し騎士の自然な動きには驚かされます。ダミーとは思えない身のこなしをするのですが、首がない。視覚効果のスタッフがILMを筆頭に多数クレジットされていますので、CGなども使われているのでしょう。逃げていく人間が首をはねられるのを1カットで見せるというワザなどもショッキングですが、見事なものです。

ジョニー・デップが今回は、前半自信満々だったのが、幽霊を見てから及び腰になってしまうイカボットをコミカルに演じています。ドラマの本筋はかなり陰惨で怖いお話なのですが、デップの二枚目半のキャラクターがそれをうまく和らげて娯楽映画としての味わいをまろやかにしています。バートン監督の映画ではおなじみダニー・エルフマンの音楽は、相変わらずコーラスを交えた重厚なオーケストラの音を聞かせてくれますが、今回はだいぶ活劇調を抑えて、ファンタジー色の濃いものになっていて、ドラマを見事にサポートしています。音楽にも、コッポラの「ドラキュラ」と似た雰囲気(こちらは、ボイチェフ・キラールが担当)を感じてしまったのは私だけでしょうか。ともかくも、観始めるとぐいぐいと引きこまれる面白さはなかなかのものです。唯一、タイトルクレジットをながめていると怪しい人物が浮き上がってしまうキャスティングが珠に傷でしょうか。


お薦め度×かなり面白い。でも結構グロだから覚悟してね。
採点★★★☆
(7/10)
全体を流れる不思議なユーモアのもとは、ジョニー・デップ。

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