written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ローズ(ラダ・ミッチェル)の娘シャロンは、夢遊病で時に「サイレント・ヒル」という言葉を口走っています。ある日、ゴーストタウンになっているサイレント・ヒルという街が実在することを知ったローズは、夫のクリストファー(ショーン・ビーン)に無断で、娘と一緒にサイレント・ヒルへ車を走らせます。しかし、その街にたどり着いたと思ったら、シャロンが行方不明になってしまいます。灰が降っている人気のない街を娘を探しまわるローズ。しかし、異様な風体の化け物が現れて、ローズを襲います。どうやらこの街には何か秘密があって、その秘密とシャロンが深く関わっているようなのです。一方、クリストファーもローズを追ってサイレント・ヒルへと向かうのですが、ローズを見つけることができないのでした。
モトは日本製のゲームだそうでして、ゲームの製作者やコナミが映画の製作にも関わっています。いわゆるホラーゲームのヒット作だそうなんです。確かに登場する化け物(この表現が一番適切と思われるゲロゲロ系のみなさんです)はいかにもゲームの映画化のような細かいこだわりを感じるのですが、物語がその化け物の存在を納得させるほどの世界観を作りえていないのが残念でした。まず、気色悪い化け物さんと、その器であるサイレント・ヒルという街を作って、そこへ因縁話を後付けしたという印象が強いのですよ。お化け屋敷としてはよくできてるけど、物語としての面白さを語りきれなかったという感じでしょうか。そこはゲームの限界なのかなあ。
監督は「ジェヴォーダンの獣」「クライング・フリーマン」といった、リアルでない世界観の映像化に実績のあるクリストフ・ガンスです。彼の演出は、物語をふくらましきれなかった脚本の映像化にはかなり健闘していまして、モンスターだけしか印象に残りかねない物語に独特の空気感を持ち込むことで、ホラー映画の佳作としてまとめあげています。特に最近のホラーにありがちな大音響や不意打ちのショックシーンを一切使わなかったところは評価したいです。確かにグロテスクな描写は多々あるのですが、それらがきちんとドラマの空気とマッチして、必然性を感じさせている(実際はグロが突出してるのに)のは、演出の力だと思いました。
お化け屋敷としての仕掛けが、大変豪華というか手の込んだ設定になっていまして、化け物のイメージ、灰降る街、不気味なサイレンの音など、怖がらせのためのサービスは過剰なほどです。登場人物はほとんど、観客と同じく、お化け屋敷のお客になってしまうおそれがありました。しかし、ラダ・ミッチェル、ショーン・ビーン、デボラ・カーラ・アンガーといった渋いけど個性派の面々が映像先行になりがちなドラマに不思議な落ち着きを与えることに成功しています。美術、SFXとも、視覚的に大変よくできた映画ですが、キャラがなかなか明快でないのを役者の存在感で補っていると言えましょう。
ストーリーは少女の怨念が町中の人を異世界に閉じ込めているというものなんですが、その一方で、閉じ込められた人々が神の名の下に一つのコミュニティを形成していて、そのコミュニティが狂信的なカルト集団になっているというかなり込み入った設定になっています。そして、ローズを娘のところまで導く少女の正体が死神だったり、神の名の下に警官を火あぶりにしたりと、神と悪魔の境界が曖昧になっています。善悪というよりは、全ては人間の悪意によってこの物語が成り立っているとわかると、ラストのアンハッピーエンドも、結局は人間の悪意の前には神も悪魔も無力であるように見えてきます。このペシミスティックな味わいは、アメリカ映画らしからぬところがあり、ある意味爽快とも思えるスプラッタ描写とは別の不快感を残す映画になっています。
ラストの華々しい阿鼻叫喚シーンを観て、レニー・ハーリン監督の「プリズン」を思い出したのですが、復讐の怨念が爆発するという点でも似たところがあるのかもしれません。
お薦め度 | ×△○◎ | ゲームの映画化としてはかなり健闘していて映画として面白い |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 渋めキャストとグロ有りショック無し演出が決まりました |
|
|