サイン
Signs


2002年11月02日 藤沢キネマ88 にて
アメリカの田舎町でミステリーサークルと宇宙人が出た。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


フィラデルフィアの郊外、元牧師のグラハム(メル・ギブソン)の農場にミステリーサークルができました。そして、夜、彼の農場で不気味な人影が目撃されます。そして、それは世界的規模で起こっているようなのです。テレビでは、あちこちでミステリーサークルやUFOが目撃され、その映像が放送されています。一体、世界で何が起ころうとしているのでしょうか。そして、グラハム一家に何が起ころうとしているのでしょうか。ミステリーサークルは何のサインなのでしょうか。

M・ナイト・シャマラン監督の「シックス・センス」「アンブレイカブル」に続くミステリーホラーなのですが、今回はホラーというよりはホラ(法螺)に近い内容になっていますが、ともあれ、前作同様、仕掛けのある映画と言えます。この先はストーリーの核に触れた内容になりますので、これからご覧になる予定のある方はパスして下さい。

映画の発端はスリラーです。ミステリー・サークルができて、犬が凶暴になり、とんでもない身軽な奴が家の周りをウロウロしているのです。テレビでは、UFOだ宇宙人だという騒ぎになっています。うーん、これはマジで地球侵略モノの話なんだろうかと首をひねっていると、ドラマは侵略者の話よりも、この家族のありようを丁寧に描写していきます。その見せ方はテンションが高くて、そしてやたら勿体つけてるのです。「アンブレイカブル」の冒頭の列車事故の前のシーンをエンエンとやっているという感じ。主人公が妻を失い、信仰も失って、厭世的になりながら、日々を送っているというところを、かなり深刻に見せます。なぜ、そんなにそういうところを引っ張るのかと言えば、それが、監督からの観客に向けてのサインだったのだというオチは、笑うよりは、結構感心してしまいました。「うまい」と思いましたもの。

色々と伏線を張ってある映画なんですが、シャマランの演出は、観客の期待を裏切ることを楽しんでいる節がありまして、今回もまず宇宙人の存在を曖昧にしておくのかと思っていると、それが実在するものとして登場してきます。それも、モロに地球侵略が目的で、それが地球規模の大事件らしいのですが、あくまで主人公一家からドラマは外へ出ないと言うのは、昔の低予算SF映画を意識的に狙ったようなのですが、それを、極限状況の人間ドラマではなく、信仰と信頼を取り戻す牧師のドラマに落とし込むことで、またしても観客の期待を裏切るのです。でも、観終わった時には、それなりの満足感を与えるのですから、娯楽映画としても及第点を与えられる出来栄えになっています。

こういう映画を楽しむ時って、二つのアプローチがあると思っています。思い切りこのドラマの流れに身を任せて一喜一憂するやり方。これですと、クライマックスは結構感動することができます。だって、失われた信仰と家族の絆が一気に戻ってくるのですもの。もう一方はこの映画の全てを疑いながら、一定の距離を置きながら観るというもの。これですと、ラストは感動というよりは、「してやられた。」或いは「こういう展開になると思っていたぜ」といった感想を持つことになります。この映画はどっちの見方でも、かなり楽しむことができます。それは仕掛けの方が意識的にそしてうまく作られているからです。ただ、仕掛け優先の印象がかなりありまして、信仰の回復とか家族の絆といったものが、その仕掛けの小道具でしかないようにも見えてしまうことがあります。

でも、その楽しみ方はどちらもアリと思います。ラストに示されるサインの中の、バットフルスイングなんてかなりバカバカしくもあるのですが、そのバカバカしさも計算されたリアリズムのように思えてしまうところにこの映画の面白さがあります。主人公が感謝を捧げる神というのは、一歩退いてみれば、シャマラン監督自身だと気づくと、これって新興宗教シャマラン教のの宣伝映画のようにも思えてきます。つまり、色々と解釈の余地やら、突っ込みの口を開けているわけでして、色々な角度から突っ込んで遊べる映画と言えそうです。

メル・ギブソン、ホアキン・フェニックスの超シリアス演技、ジェームズ・ニュートン・ハワードのヒチコック映画風音楽、タク・フジモトのドキュメント風絵作り、それらが全てにおいて、映画を使った一つのゲームのような味わいになっています。どう楽しむかはこちらのアソビ心にかかってくるのかもしれません。


お薦め度×ヤミ鍋みたいで、ネタは食べるときまでのお楽しみ。
採点★★★☆
(7/10)
シャマラン作品の中では、今回はアソビ心が大きいかな。

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