written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
あるところにブサイクな怪物シュレックがおりました。領主であるハートウッド卿が、ピノキオとか白雪姫といった、おとぎ話のキャラクターを彼の住む沼に追放してしまいます。一人でひっそり暮らしたいシュレックはハートウッド卿に直談判に行くのですが、そこでどういうわけかドラゴンに囚われているソフィア姫をはめになってしまいます。何とかお姫さまを助け出すことに成功するシュレック。でも、きれいなお姫さまはなぜか日が暮れると姿を隠してしまいます。何か事情があるようなのですが、その一方、シュレックとお姫さまの間には恋心が芽生えてくるのですが、姫はハートウッド卿と結婚するという運命が待っていたのでした。
予告編を観た限りではおとぎ話のパロディ集みたいな映画かと思っていたのですが、意外やこれがきちんと独立した一つのおとぎ話として楽しい作品に仕上がっていました。嫌われ者であるけど、それなりに繊細な神経の持ち主であるシュレックが美しいお姫さまに恋心を抱くようになります。でも美しいお姫さまとなんて、所詮はかなわぬ恋です。でも、姫もブサイクだけど心やさしいシュレックに心をひかれるようになるのですから、話はややこしい方向に進んでいきます。
もともと醜い容姿であるという自覚のあるシュレックは、だからこそ周囲に他人を寄せつけないようにしていました。ところがしゃべるロバとフィオナ姫はそんな彼のやさしさを見抜き、友人として接するようになります。それを意固地になって拒むほどシュレックは子供じゃなくて、その関係を自分の中に取り込もうとします。でも、姫には誰にも言えない秘密がありました。そこから先の展開は劇場でご確認頂きたいのですが、容姿の醜さを醜さとして受け入れてしまう、それをあえて美しいとは言わないところにこの映画の見識があると言えましょう。
差別と偽善のスレスレのところで、この映画は決着がつきます。それを悪趣味と見るか、差別と見るか、それとも純粋な愛の物語と見るか、これは観る人によって異なってくると思います。でも、ここで感じられるのは、外見の美しいことと醜いことは違いではあるけど、優劣じゃないという視点です。実はこの映画はアンチディズニーの視点から描かれていると思われる部分が多く、これまでのディズニーのお約束をひっくり返すことを狙っている節があるので、この映画の決着も単にディズニーアニメの逆を行っただけという見方もできます。でも、そこから見えてくるものは、見た目の美醜を優劣でないとすれば、心の美醜も優劣とは言えないかもしれないという視点でして、これは結構新鮮に思えました。
根性悪みたいなところもあるシュレックに潜むやさしさの部分にドンキーと姫は気付くのですが、そのやさしさは、シュレックと普通に接していれば気付くことはないでしょう。じゃあ、シュレックは心の醜いモンスターかというとそうでもない、でも、多くの人々にとってはおっかないモンスターであることには変わりがないのです。普通だと最終的に見た目と心の美しさは一致してめでたしめでたしなのですが、この映画はそうとは限らないという見せ方をしているところがあって、なかなか面白い、言い方を変えると、従来のディズニー的展開をひねったものになっています。ディズニーと一線を画そうとしているのは、作っているのがドリームワークスだからでしょうか。「アンツ」の時も、シニカルな視点が前面に出ていまして、「バグズライフ」の徹底した明るさとは一線を画してましたもの。
私はこの映画を日本語版で観たのですが、ダウンタウンの浜田雅功の関西弁が意外なほど、シュレックに合っていて、単に話題作りのキャスティングになってないことに感心しました。最後まで美しくない二枚目という複雑なキャラをなかなかうまくこなしていると思います。また、姫の声を演じた藤原紀香も、藤原紀香が前面に出ることなく、キュートでちょっと訳ありの姫を好演しています。
お薦め度 | ×△○◎ | 日本語版が意外といい出来。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | ああいう決着もありかなと。 |
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