written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ハル(ジャック・ブラック)は父の遺言通り、女性を見る時、外見重視で望みが高いので、全然彼女ができません。そんなある日、エレベータで乗り合わせたセラピストから女性の内面が見えるという暗示をかけられます。すると、ハルは女性の心の中を外面の美しさとして認識するようになります。そして、ある日、絶世の美人ローズマリー(グウィネス・パルトロウ)を街で見かけて、アタックをかけます。実はローズマリーは、ハルの会社の社長令嬢で、100キロを超えるすんごいデブだったのですが、ハルの目には、スリムな美女としか見えません。ハルの友人は、それまで美形にしか目もくれなかったハルがいわゆるブサイク系にやたらアタックをかけるので、おかしいと思い始めるのですが。
「メリーに首ったけ」でメジャーにブレイクしたファレリー兄弟の最新作です。でも、今回は差別ネタやブラックな笑いは割と少なめにして、女性の心の美しさを外見として認識するようになる主人公と、そんな彼に惚れられるローズマリーという女性の恋愛模様を直球勝負で描いています。どう転んでも、ハッピーエンドはあるまいと思える設定を、抵抗感なくハッピーエンドへ落し込むあたりが見事でした。後味のよい結末を素直に受け入れられる人にはオススメの一品です。
人間、外見じゃないって言いますけど、やはり第一印象は外見から入るもの。そうなると外見ってやっぱり大事です。この映画はそれを否定しようとするものではありません。たまたま、暗示にかかったハルが、ローズマリーという女性の内面を先に知ってしまって、それに魅力を感じた彼がアタックをかけたというお話なのです。でも、ローズマリーは自分のルックスを十分知ってますから、「ステキだ、美しい」というハルの言葉を信じませんし、彼の好意を感じながらも、そんなことを口にするなと彼に言います。このあたりを、ハルの視点から描くと、スリムで美形なパルトロウが言うので、何というか、彼女がすごくやさしくて奥ゆかしい女性に見えてきます。今回のパルトロウは大変に魅力的な女性として描かれていまして、本当のルックスになってからの、特殊メイクによる彼女も含めてキャラクターとしての魅力に溢れています。
最初はルックス重視というキャラクターしか与えられていなかったハルが段々奥行きが出てくるあたりがうまいです。ルックス重視ではあるけれど、決して悪意はないし、むしろその心根は善意の持ち主であったとわかってくるに連れて、観ている方が彼に感情移入してしまいます。しかし、その心の中の美しさが見える能力は永久には続きません。その能力が切れてしまった後、ハルはローズマリーの本当の姿を見ないように逃げ回ることになります。それって、卑怯だよなあって思われそうなんですが、そこに至る彼の気持ちを丁寧に描写することで、それも彼の誠実さとして受け入れることができるのでした。このハルという主人公を人並のやさしさと善意の持ち主として描いたところにこの映画の見識があるように思いました。
すんごいデブヒロインとハルの恋愛模様の結末は、劇場でご確認して頂きたいのですが、これまでのファレリー兄弟の映画のようなヒネリやブラックユーモアはなく、そしてハッピーエンドですので、安心してご覧になって頂きたいと思います。
この映画、確かにルックスに難ありだけど、心の美しいローズマリーが主人公なんですが、だからと言って、醜いものが美しく、美しいものが醜いという単細胞映画ではありません。ハルの向いの部屋に住む女の子は、ハルが暗示にかかる前と後で、見た目が変わりませんし、ハルは、自分にとっての美醜というのは、あくまで主観でしかないこともちゃんとわきまえています。彼は心の中の美醜を外見のように捉えるになってから、何が美しいのかという主観が少しずつ変わっていきます。美醜が入れ替わるのではなく、その判断基準が見る側の中で変わっていくというお話なのです。暗示がとけた後、自分がそれまで美しいと思った人々に再会した時に見せる、ハルの驚きは、観客にとっての驚きとなります。さらに、ハルはそれらの人々に改めて敬意と好意を示すところが圧巻でした。そして、ハルに感情移入してしまうと、自分にもひょっとして、彼くらいの善意の持ち合わせがあるかもしれないと思えてくるのがうれしい映画です。(錯覚かもしれないけど)
物語の骨格は、二人が知り合い、ある事件があって別れてしまうけど、最後に男の方が彼女の所に乗り込んで彼女の愛を取り戻すという、恋愛映画の典型です。ただし、主人公が小太りハルに大デブのローズマリーだったというところが普通の恋愛映画とちょっと違うというところなのです。役者は皆好演でして、悪意のあるキャラクターが登場せず、それぞれの善意がすれ違う様をうまくまとめたセンスを買いたいと思います。
お薦め度 | ×△○◎ | 出来すぎだけど、なぜか納得できて、うれしいハッピーエンド。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | 他人と自分の良心をもう一度信じたくなると言ったら誉め過ぎか。 |
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