written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
時は徳川時代、富士山は噴火し、そこから妖怪たちが現れて人間の世界を脅かし始めます。亡き父の跡を継いだ公儀妖怪討伐士さくや(安藤希)は、この事件の大元を探るべく、弟(実は河童)の太郎と共に、富士山へと向います。幕府からの助っ人忍者二人を伴った道中です。途中、八王子では、妖術を使う人形遣いや化け猫をやっつけ、箱根の先では怨霊武者と一戦を交えます。そして、草薙の野では、今回の一見の元締めである土蜘蛛の女王(松坂慶子)がさくやたちを待ちうけていたのです。
映画の冒頭、ワーナーブラザースのマークが出ました。ドワーニという東芝、日本テレビ、ワーナーの合弁会社の第1回作品だそうです。予告編を観た印象は実写版もののけ姫のような、時代劇女仮面ライダーのような感じでした。特殊メイク造形で有名な原口智生が本編初監督し、特技監督に「ガメラシリーズ」の樋口真嗣が参加し、特撮を特撮研究所で担当したという、マニアにはたまらん、そうでない人には「ふーん、それが?」という布陣で作られたファンタジー活劇です。
その昔、20数年前、怪獣ブームの去った後、ほんの一瞬ですが、妖怪ブームというのが持ち上がったことがあります。「ゲゲゲの鬼太郎」とか「妖怪百物語」が評判になったころです。この映画はどうやらその時代の雰囲気に敬意を払い、さらに家族向け映画を狙った節があります。例えば、登場人物や地名を字幕で紹介するのに一々ふりがなをつけるあたりの気配りは最近の映画にはなかったものです。昔のマンガには、漢字には必ずカナが振ってあって、マンガを読んで漢字を覚えるなんてこともあったのです。また、たくさんの妖怪が登場するのもうれしい趣向でして、このあたりは「妖怪百物語」の世界を彷彿とさせます。これらの妖怪の扱いも、最近のモンスターもののような不必要な粘液描写でがなく、生理的な嫌悪感を感じさせない配慮があるのもうれしいところです。
さらにヒロインの安藤希がかわいいのもマルでして、多少(いや、かなり)セリフ回しが危なっかしいのもご愛嬌ということになりましょう。さらに、土蜘蛛の女王を松坂慶子が貫禄で演じきりました。巨大化して暴れまわるところなんか、東映の戦隊ものを思わせ、微笑ましくも、そこまでやるかという気になりましたもの。仕掛けとしては、富士山噴火、地割れのミニチュア特撮や、妖怪の消えるシーンのデジタルイフェクトなどの見所も多く、巨大松坂慶子大暴れのシーンはかなりの迫力でした。
じゃあ、この映画いいところづくめかというと、そうでもないのです。まずヒロインの安東希演じるさくやの成長物語かと思いきや、さくやは既に師匠格の出来上がったキャラクターになっていて、弟の河童の成長物語になっているのです。そうなると、新人の彼女にはこの役は重すぎたようで、もっと感情を前面に出す葛藤するヒロインにした方が彼女のキャラクターも生きたように思います。
また、この映画を観ていてイライラさせられたのは、やたらにアップの絵が多くて、殺陣とか人物の位置関係がよくわからないということです。人物のアップをつないでいくのはいいのですが、場面全体を見せてくれないと何が起こっているのかよくわかりません。テレビの画面で見るのであれば、こういうのもありなのかもしれませんが、劇場の大画面で観る絵にはなっていません。また、登場する妖怪の造形もばらつきがあって、その昔の「妖怪百物語」のような統一された世界観が感じられません。というわけで、結構いいところもあるのですが、一本の映画として観た場合、とても誉められた出来とは言いがたいのです。ドラマの流れもスムースでなく、一番の見せ場である、ヒロインが巨大松坂慶子に追い詰められるシーンを、河童の葛藤のバックの画面として使うといった演出には不満が残りましたし、いい妖怪と悪い妖怪いった色分けをするセンスも、どうも好きになれません。いい悪い関係なく、妖怪はそこにいて、時として人間との接点を持ち、そこで仲良くなったり、諍いがあったりするけど、基本は「なんとなく共存」なのではなかったのかなあ。
それでも、こういう家族向けを意識した映画が作られて欲しいという気もしますし、その昔の「悪魔くん」や「妖怪百物語」のファンとしては、こういうジャンルの映画は歓迎したいです。でも、はなからビデオで観ることを前提にしたような絵作りはして欲しくないですし、もっと、娯楽映画を作り慣れた人に作って欲しいとも思うのでした。
お薦め度 | ×△○◎ | ビデオだとかなりいい、スクリーンだとちょっと。 |
採点 | ★★★ (6/10) | 滅法面白く頑張ってるから、暖かい目で見てね。 |
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