written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ある街の湾岸地域は中国系組織と黒人系組織の抗争の場となっていました。そんなとき、中国側のボスの息子が殺されます。一方、香港の刑務所にいた兄ハン(ジェット・リー)はそれを聞いて脱獄し、弟の復讐を誓うのでした。彼がひょんなことから知り合ったトリッシュ(アーリア)という娘は実は黒人側のボスの娘で、彼女の兄も何者かに惨殺されてしまいます。この地域にNBAを誘致するという大きなビジネスの話が持ち上がっていて、その利権を巡る陰謀がうごめいているようなのです。一体、ハンの弟を殺したのは誰か、そして、組織間の抗争の行きつく先は?
「少林寺」などで有名なリー・リン・チェイが、アメリカ映画でジェット・リーの名前で「リーサル・ウェポン4」で悪役を演じた時、そのアクションの動きのよさで印象に残るハリウッド・デビューとなりました。今回は堂々の主演ですが、映画のグレードは「リーサル・ウェポン」ほどにはならなかったようです。とはいえ、ジェット・リーのアクションは生身の動きとワイヤーワークによる特殊効果を組み合わせて見応え十分ですから、このアクションシーンをドラマ側でうまく生かすことができれば相当面白い映画が作れることでしょう。
オープニングの脱獄シーンからして、逆さ吊りの状態のリーが5人を相手に大立ち回りという見せ場になっていまして、これがなかなかにすごい。また、要所要所にX線写真のような絵を入れてトドメのシーンにインパクトをつけたりしています。これは、プログラムを読むと、リーの発案だそうですが、彼も日本の仕事人シリーズを見ていたのかどうかは定かではありません。また、後半のアクションでは、ホースを使ったアクションが印象的で、全体にコミカルというよりはハードなアクションシーンが展開し、その各々は大変迫力ある見せ場になっています。
さて、ドラマの方ですが、二つの組織の抗争を舞台にした物語で、復讐モノでもあります。ストーリー的には単純なお話な筈で、要所要所にアクションシーンを織り込んでいけば、かなりな見応えになる筈なんですが、今回、初めてメガホンをとるアンジェイ・バートコヴィアクの演出は、段取りのドラマが長く、この中身で2時間近くあるのはどう考えても手際がよいとは申せません。ジェット・リーの鮮やかなアクションを、ジャッキー・チェン並のサービス精神で、畳み込んでくれれば、近来にない快作になったでしょうが、あまり本筋と関係がない黒人組織のお家騒動に描写を割き過ぎて、散発的に登場するアクションシーンが、ドラマの盛り上げに役立っていないようなのです。これなら、きっとこの映画本編よりも、メイキングの方が盛り上がって感動ものの面白さかもしれません。
リーの相手役を演じるアーリアは、もともとは女優ではなくて、歌手なのだそうですが、なかなかに好印象でして、共感できるキャラクターのいないこの映画の唯一の清涼剤となっています。確かに彩り以上のものにはなっていませんし、主人公とのラブアフェアーがあるわけでもないのですが、それでも、彼女の存在で映画はずいぶんと救われているようです。数多く挿入されるヒップホップのナンバーのうち何曲かは彼女自身が歌っているそうですから、色々な意味で彼女の貢献は大きいようです。
アクションシーンも含めて、グレン・マクファーソンのキャメラは、シネスコ画面を使い切れていないという印象で、せっかくのアクションをきちんとフレームに収めそこねているようです。スーパー35からの、上下トリミングの絵だとしても、リーのアクションをきっちりと全部見せてくれないのは、ミュージカルでダンスの足を見せないのと同じです。「リーサル・ウェポン4」「スピード」などでアクション映画で撮影監督として実績のあるバートコヴィアクが自ら撮影も手がけた方がよかったのではないかしら。(まあ、アクションシーンは、第2班の撮影になるのかもしれませんが。)
お薦め度 | ×△○◎ | アクションの見せ場までが長い。 |
採点 | ★★★ (6/10) | ドラマとしてはかなり後味悪いんですが。 |
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