リング0・バースデイ
Ring0


2000年01月26日 神奈川 川崎チネグランデ にて
ショックシーンなしで見せる恐怖と悲しみの物語。


written by ジャックナイフ
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あの呪いのビデオができたのには、それだけの理由があったのです。ある劇団に身を置くようになった山村貞子(仲間由紀恵)はちょっと変わり者の女の子。でも、録音技師の遠山(田辺誠一)となんとなくいい関係になり、ほのかな恋心が芽生えるようになります。そんな彼女の周囲で不思議なことが起こり始めます。みんなが井戸の夢を見たり、主演女優が奇怪な死を遂げたり。彼女自身には身に覚えのないことなのに、なぜか彼女の周囲に不気味な影がつきまとうのです。一方、新聞記者の宮地(田中好子)も貞子を追っていました。一体、彼女に何が起こるのかって、「リング」観た人なら、知ってるんですけど。

「リング」は日本映画のホラーという意味で、大変よくできた面白い怖い映画でして、見せ方驚かせ方の面白さに、ダメ押しの恐怖をつきつけて、その究極の恐怖のイメージは観客に委ねてしまうという構成がお見事でした。ところが「リング2」は物語の設定に「リング」のような緊迫感がなくて、見せ方驚かせ方だけの映画になっていたように思えます。そこで、今度は「リング0」ですから、あまり期待はしていなかったのですが、脚本は同じ高橋洋でも、監督が中田秀夫から、鶴田法男に変わったというところで別の趣向を見せてくれるのではないかという期待が出てきました。

そんな感じで本編に臨んだのですが、一言で言うとこれは大変面白くできた映画でした。まず、前作と一番違うのが、ショックシーンを一切見せなかったこと、同じ脚本でも、あるシーンをショックシーンとして演出するかどうかということで映画の印象はずいぶんと変わってきます。今回の「リング0」はショックシーンを思いきってカットし、ビックリに頼らない恐怖を演出することに成功しています。「リング」が呪いのビデオを観てしまった人の恐怖の物語、そして「リング2」が恐怖のビデオにまつわるエピソードの羅列だったのに比べますと、ドラマは完全に山村貞子に焦点を合わせていて、薄幸なヒロインの悲しみの物語と位置付けることができます。

とにかく、決着はあの「リング」につながなければいけないという宿命を負わさせているのですが、その制約の中で、反則すれすれの仕掛けを使いながらも、一本の独立した映画にまとめようとし、その試みは成功しているように思いました。この映画を観ている間は、あの貞子に感情移入できるのですよ、そして、「貞子がんばれ」「貞子やったれ」「貞子かわいそー」といった気分になってくるのです。

映画の冒頭、ヒロインの仲間由紀恵がまるで生気のない幽霊みたいな顔をしているのが、録音技師の二枚目とだんだんいい雰囲気になってくるにつれて普通の女の子の顔になってくるのが見物です。そして、その普通さと裏腹に彼女の周囲で怪奇な事件が起こって、彼女が阻害されていくあたりは、少女漫画風いじめの世界になっていき、ラストには恐るべき結末が待っているのです。映画の展開から、彼女への謎が深まるに連れて、彼女の生身の女性としての顔が前面に出てくるようにした、鶴田監督の演出が光ります。そして、その謎と本人との間のギャップが、この物語の悲劇性をくっきりと浮かび上がらせました。特に救いのないラストカットがあの「リング」につながるのだと思うと相当ぞっとさせるものがあります。逆に「リング」「リング2」を観ないでこれを観たらほとんど怖くない映画になっているとも言えます。ちょっと、スティーブン・キングの超能力者の孤独を扱った「ファイアー・スターター」「デッド・ゾーン」のような味わいがありまして、因縁とか怨霊といったものが前面に出てこない分、日本風怪談とはちょっと違った趣があり、この映画だけを観てしまうと、SF風ホラーという見方もできてしまうのではないかしら。

脇役では、田中好子や麻生久美子、高畑淳子、奥貫薫といった女性陣が印象的でして、ヒーローであるはずの田辺誠一もかすんでしまったという印象で、つくづく女性の映画、少女漫画の世界なんだなと思いました。また、「リング」「リング2」では川井憲次がシンセサイザーによる、ホラーサウンドを前面に出していたのですが、今回は、尾形信一郎がオーケストラによるドラマチックな音楽をつけました。ピアノでヒロインの孤独を描写する音など、これまでの「リング」の世界にはないアプローチで、いい意味で期待を裏切られたという印象でした。


お薦め度×正統派怪談とシリーズのつなぎを両立させたのは見事。
採点★★★★
(8/10)
説明し尽くさないセンスはかなり好き。

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