この胸のときめき
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2000年09月30日 神奈川 ワーナーマイカルみなとみらいシネマ5 にて
知り合った時点で他人じゃなかった二人のラブストーリー


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


シカゴの動物園でゴリラ舎を建設しているボブ(デビッド・ドゥカブニー)は、奥さんを交通事故で失い、彼女の夢であった広いゴリラ舎の完成に全力投球。一方、グレース(ミニ・ドライバー)は心臓病で長いことないと言われていたのが、運良く心臓提供者が見つかり、そのおかげで今は元気で祖父の経営するイタリアレストランで働いています。そんな二人が偶然にも出会い、恋に落ちます。ところが、実はグレースへの心臓提供者とは、今はなきボブの奥さんだったのです。そんな運命的な出会いをしてしまった二人です。その真実を目の前にした時二人は今の関係を続けることができるのでしょうか。

心臓移植された女性と、提供者の夫との恋というと、すんごい偶然ですが、それだけ運命の重さを感じる出会いです。そんなラブストーリーだと、「メッセージ・イン・ア・ボトル」のようなドラマチックでディープな恋愛ドラマを想像してしまうのですが、その期待はいい方に裏切られます。まず、主人公の二人が愛にのめり込むキャラクターになっていませんので、ドロドロした展開になりません。また、脇に笑いをとる皆さんを散りばめて、人情コメディとしてチャーミングな映画にまとまりました。

女優さんとして「ベートーベン」や「グリーンマイル」でよき妻を演じてきたボニー・ハントの、共同脚本も含めた初監督作品です。映画としての作りは、ボブが奥さんを失うところから始まり、グレースとの出会いから恋愛への進展という構成で、大変まっとうでストレートです。そして、主人公二人も含めて、どこかコミカルな味わいを持つキャラクターにしているのが、観ていていい気分になれる映画になっています。ボブの友人の獣医は女性を誘うのに趣味が今イチだとか、グレースの祖父のレストランには毎晩じいさん4人が集まってトランプしながら二人の恋の成り行きに一喜一憂しているといった脇の人間を丁寧に描いているのがこの映画に集団ドラマのような趣を与えています。

また、主人公二人も、メロドラマを演じるヒーロー、ヒロインというにはちょっと不似合いな二枚目半コンビなのもこのドラマを楽しいものにしてます。デビッド・ドゥカブニーもXファイルの時よりも好感の持てるキャラクターで、グレースと知り合ってからは、職場でも機嫌がよくなっちゃうとか、電子レンジ一つうまく使えなくてオタオタしてしまうところ、下手なボーリングで3本倒れてガッツポーズとったりなど、カッコ良くはないけど微笑ましいキャラクターになっているのです。ミニー・ドライバーも病気の時の登場シーンで「市民ケーン」でギャグをかますなど、おかしくて元気な女性になっているのが好感度大です。その二人をとりまく連中のおかしさも細やかに描かれていて、ヒロインの友人として登場するボニー・ハントとジェームズ・ベルーシの夫婦の所帯じみてるけど、愛すべきファミリーとか、今回はギャングでも軍人でもないロバート・ロジアのイタリアンコックぶりなど、登場している面々を見ているだけで楽しい映画になっています。そんな中で、冒頭だけ登場するボブの奥さんを演じたジョエリー・リチャードソンの知性と美貌が際立ちました。この映画を支える役どころをリチャードソンは嫌味のないキャラクターとして演じきりました。この映画の影の功労者は彼女なのではないかしら。

上述の連中以外でも、犬やら、子供やら、とにかく出てくる連中がみんなおかしくも好感が持てるのがうれしくて、シンプルな設定の割りに2時間近くある長さも気にならない、よくできた娯楽映画と申せましょう。楽しくも微笑ましいホーム・ドラマの中に臓器ドナーのネタを加えたような印象です。決着も当然予定調和なんですが、それを自然に受け入れることができるのがこの映画のうまさと申せましょう。この映画を観てると、主人公二人や、ボニー・ハントやジェームズ・ベルーシが本当にいい人なんだろうなあって気になってくるのですよ。それは、NHKの朝のテレビ小説を観ていて、その役どころと演じる俳優さんがごっちゃになっちゃうのと似たものがあります。そんな親近感の湧いてくる外国映画ってのも珍しいかもしれません。


お薦め度×観客の世代を問わない誰にでもおすすめできる逸品。
採点★★★★
(8/10)
設定シリアス、でも笑える人情コメディ。

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