written by ジャックナイフ E-mail:64512175@people.or.jp
フロリダ行きの旅客機が墜落し、ケイ・チャンドラー下院議員(クリスティン・スコット・トーマス)の夫が犠牲者の中に発見されます。同行者の女性は名簿では妻となっていましたが、実は、不倫中の人妻だったのです。そして、その亭主、内務調査班の刑事ダッチ(ハリソン・フォード)は不倫の事実を知り、ケイのもとを訪ねて、二人のことを調べようとします。でもケイは今選挙活動の真っ最中、そんなスキャンダルネタがおおっぴらになっては、政治生命に関わる状況にいたのです。それでもつきまとうダッチに、ケイは心ひかれていくのです。こんな出会いに果たしてハッピーエンドがあり得るのかしら?
予告編を観た時、これはハリソン・フォード主演のミステリーサスペンスかと思いました。飛行機墜落事故のシーンから始まって、その犠牲者となった妻が他の男と夫婦を名乗っていたというのです。その秘密を相手の男の妻が握っているような見せ方をするのです。その彼女は政治家みたいだし、何やら政治絡みの陰謀を感じさせる展開を期待してしまいました。予告編のバックには、同じくフォード主演の「推定無罪」の重厚でスリリングな音楽がかかり、かなり期待させてくれたのです。と、クドクドと書いたことからもお察しがつくかもしれませんが、これが全然ミステリーでもサスペンスでもない、純然たるメロドラマになっているのです。それも、最近はテレビの昼メロでもやらないような直球勝負なのです。出来の良し悪しは置いといても、この予告編で期待した私にとっては、まずサギにあったような映画でした。これは映画そのものの責任ではなく、予告編を作った人間の責任です。
それに、今回のハリソン・フォードはかなりカッコ悪いのですよ。確かに寝取られ男の憤りはわからないでもないのですが、同じ思いをしている相手の男の未亡人につきまとわなくてもいいじゃない。ダンナの死と裏切りのダブルパンチを受けていて、選挙戦の真っ最中というケイに対する思いやりなんてものはこの主人公持ち合わせてはいないようです。なのに、不思議なる女心は、どんどんダッチにひかれていってしまうのです。ヒロインは年頃の娘も抱えて大変なのに、気丈にも日々の苦難を乗り越えていこうとする大変魅力的な女性です。そんな彼女があんなストーカーもどきに引っかかってしまうのは、個人的には納得いきません。確かにヒロインの周囲にいる連中は男としてはロクでもない連中かもしれないけれど、それにしてもねえ、男女の仲はミステリーなのであります。
シドニー・ポラックの演出は、ケイも辛いけど、ダッチも辛いんだよっていうところを一生懸命見せようとしているのですが、ハリソン・フォードの陰にこもる苦悩ぶりが絵にならないのですよ。どの程度カミさんを愛していたのかも不明ですし、その裏切りに対してどう思っているのかもよくわからないのです。腹芸のできる役者さんだったらよかったのかもしれませんが、こういう役どころは、フォードには荷が重過ぎたような印象です。彼の表情を演出が丁寧に追えば追うほど、エゴイスティックなストーカー野郎の顔しか見えてこないのはお気の毒と言うべきでしょう。
ヒロインのクリスティン・スコット・トーマスは、もろに昼メロの悩めるヒロインを的確に演じきりました。感情的に不安定になっている彼女がダッチという境遇を共にする男性にひかれる(よろめく?)のは理解できますもの。タフでないヒロインの繊細さが彼女のキャラクターとうまくマッチしていました。一方、他の脇役にも、結構いい役者を揃えているのに彼らを生かしきれていないという印象がありました。チャールズ・S・ダットンとか、ポール・ギルフォイル、スーザン・フロイドといった面々は、その役どころからして、もっと印象に残っていいはずですし、残る演技のできる人たちだと思うのですが、影が薄いのは、主人公二人にドラマの焦点を合わせた結果とはいえ、ちょっと残念な気がします。
物語としては、メロドラマと言ってしまえばそれまでですが、映画としては、かなり丁寧で贅沢な作られ方をしているという印象で、ビデオで観るための映画とは一線を画す、スクリーンで鑑賞するための映画になっています。デイブ・グルーシンの音楽は、サスペンスものとは違う、ドライなジャズと、しっとりとしたストリングスの両方をうまく使い分けて、ドラマをサポートしています。
お薦め度 | ×△○◎ | お正月映画としては華がないなあ。 |
採点 | ★★★ (6/10) | 純然たるメロドラマと思えばそこそこ。 |
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