written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
宇宙探査船のレオ(マーク・ウォルバーグ)は、磁気嵐の調査に向ったチンパンジーを追って宇宙ポッドに乗り込みます。そして、彼は時空を超えて、ジャングルの中に不時着します。そして彼は小汚い格好をした人間たちが猿に狩られているのに巻き込まれます。親人派のアリ(ヘレナ・ボナム・カーター)の家に奴隷として買われたレオは、そこで他の人間と共に脱出を図ります。それを追うのは、レオの存在にいやな予感を持つ将軍セード(ティム・ロス)。レオたちは、猿の先祖の発祥の地へ赴くのですが、そこで彼らを待っていたものは?
1968年の「猿の惑星」はテレビで観たのですが、傑作だと思いました。最後まで傲慢な態度を崩さない主人公と、人間と猿の立場が逆転した世界というのが、絶対的な正義とか真実というものなんかないというあたりの語り口のうまさ。そして、猿の世界から禁制地域にいたるまでの視覚的なうまさ。遺跡から発掘される人形などの小道具の扱い。猿のメイクにも驚いたのですが、全体を流れるペシミスティックな雰囲気が、映画の魅力になっているといる、見応え十分の作品でした。その後シリーズものとなって全部で5本の映画が作られました。
今回のリメイクには、「シザーハンズ」「マーズ・アタック」などのティム・バートンが監督し、猿のメイクにリック・ベイカーが参加するというのが、大いに期待させました。ただ、予告編を観ていて気になったのが、今回はやたら戦闘シーンが多いらしいということで、最初の「猿の惑星」は活劇ではなかったことを考えると、今回はかなり毛色の違ったものになりそうだということ。また、ティム・バートンは、差別され虐げられる弱者に対する暖かい視点がユニークなので、今回は、猿と人間とどっちにシンパシーの重きを置くのかというところにも興味がありました。
そういう期待で、本編に臨んだのですが、全体を観た印象は、昔のシリーズ5本をひっくるめたパロディなのかなということでした。今回の映画にオリジナリティがないとは言いませんが、前シリーズの色々なシーンが思い出されてきて、それがバートンの軽めの演出によって、パロディのように見えてしまうのです。その中で、新機軸と思ったのは、親人派のアリが、レオに恋愛感情を持つという設定でしょうか。動物好きというよりは、種を越えた感情はバートンらしい生臭さが面白かったのですが、映画はそれ以上に深入りしないのが物足りなかったです。ただし、人間がやったら変態扱いされちゃうような世界ですから、そこを突き詰めると子供が見られないレイティングをされてしまうかも。また、人間と猿の関係が、前作のような絶対的なものではなく、言葉も通じてかなり対等というのが意外でした。今回の猿の惑星に置いての人間への差別は、今の人間と猿の関係というよりは、人種差別に近いものがあります。これなら、今の人間の猿に対する扱いの方がひどいとも言えましょう。
メインストーリーの方は、SFというにはご都合主義が多すぎて、全体的に安いという印象になったのが惜しまれます。特にラスト20分の処理は脚本に問題があるのでしょうが、どうしてこういう決着がついたのか、私には理解できませんでしたし、さらにオマケについてくるオチも、映画全体を安っぽいものにしてしまったように思います。やはり、映画は脚本があってのものだということを改めて認識させられました。また、1968年の作品におけるペシミスティックな視点はベトナム戦争や強いアメリカの翳りといった、その当時の社会状況を反映させていたように思えますが、今回はそういう時代の反映を感じられず、コミックの実写版のような映画になってしまっています。バートン監督としては、ファンタジーの線を狙ったようにも思えるのですが、その狙いは映画そのものを幼い印象にまとめてしまったような気がします。特に、今回は猿側は人間に対して傲慢なのですが、人間側はそれほど悪感情を猿に持っていないように見えるのは、ドラマとしては片手落ちではないかしら。
猿のメイクは、これまでの「猿の惑星」シリーズとは一線を画すもので、猿というよりは、ヒトと猿をかけあわせたような印象(「ドクターモローの島」のような)でして、その分表情豊かになりましたけど、レオ、アリ、ゴリラ兵士を比べると、どう見ても、レオとアリの方が種が近いという印象でして、人間が類人猿ヒト科という位置付けになったのは、面白いとは思いますが、その結果、猿とヒトの対立が曖昧になってしまいました。また、いざという時はキーキー言う猿が意思伝達は英語というのが、今一つなじめませんでした。そういう世界を構築したと言えばそうなのですが、やはり前シリーズを観ている人間には全体としてしっくり来ないところが多いように思えます。前シリーズを知らないで観れば、かなり楽しめる映画にはなっていると思いますが、知っている私にとっては、前シリーズがよくできていたのだということを再認識する映画になってしまいました。だって、私がこの映画に対して感じた不満な点は、前のシリーズではきちんと描かれていたのですもの。ひょっとして、ドラマなんかどうでもよくって、単に「猿の惑星」そのものをスクリーン上に描きたかっただけなのかな。
お薦め度 | ×△○◎ | 昔の映画を知らない人には◎なんだけど。 |
採点 | ★★★ (6/10) | 何と言うか「猿の惑星ごっこ」みたいなー。 |
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