フォーン・ブース
Phone Booth


2003年11月22日 宮城 MOVIX仙台シアター8 にて
電話はボックスに閉じ込められた?何それ。


written by ジャックナイフ
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広告マンのスチュ(コリン・ファレル)が、新進女優への口説き電話を通りの電話ボックスからかけ終わった時、なぜか、その公衆電話のベルが鳴ります。無意識にそれをとったところ、向こうの声は、彼の名前から、素性、女優を口説こうとしていることまで何でも知っていたのです。そして、さらに、銃でおまえを狙っているから、電話を切るな、と。そんなのハッタリだと思っていたスチュの横で、おもちゃのロボットが吹っ飛びます。どうやら、ホントに通りのど真ん中にいる彼に銃の照準を合わせている誰かがいるようなんです。そこへ、悪いことに「早く電話をあけろ」と娼婦たちがしつこく言ってきます。でも、電話を切れば殺される、そして、事態はさらに悪い方向へと展開していくのでした。

この携帯電話が普及したご時世に、電話ボックスを舞台にしたスリラーなんて、出し遅れの証文じゃないの?という先入観がありました。ところが、冒頭で携帯電話の普及のナレーションから始まるのを観て「おや?」と思わされました。そして、ニューヨークの大通りにある、翌日には取り壊しになる電話ボックスでの事件だというのです。なるほど、電話ボックスという設定の使いおさめという事を冒頭で宣言しているのです。そして、主人公がなぜ電話ボックスを使うのかの理由もきちんと説明されていますし、設定を手際よくさばいていくあたりは、ジョエル・シューマッカー監督のうまさが光ります。

電話ボックスから動けない状態で、スチュは殺人犯扱いされ、警官隊に取り囲まれてしまうのですが、それでも動くことができない、そんな異常な状況下のお話をシューマッカーの演出はテンポ良く展開していきます。犯人の不気味な声に翻弄される主人公が、どんどん追い詰められていくあたりも見事です。尊大な態度で、若い助手をこき使って、口先だけで生きてきた主人公が、この理不尽な状況の中で、自分自身の生き方と直面せざるを得なくなるというサブプロットがドラマに奥行きを与えていまして、冒頭、やな奴だなあと思っていたスチュにだんだんと感情移入してしまう展開の面白さもあります。ラスト近くで、脅迫者によって、妻に自分の心の中を全て告白させられるあたりは、ドラマ的にかなり盛り上がります。メインの物語とは、直接関係はないんですが、追い詰められた挙句にプライドをズタズタにされる主人公にちょっとホロリとさせられてしまいました。やな奴なのに、応援したくなりましたもの。

また、警察側の動きも説得力がありまして、最初スチュが殺人犯だと思ってとりこ囲んでみたものの何か様子がおかしいことを察知していくあたりの積み上げが見事でした。何とかして、スチュの電話の相手を探し出そうとするところとか、最初、現場指揮官のレイミー警部(フォレスト・ウィテカー好演)と対立する交渉人の刑事が後半レイミーと一緒になって彼を救うべく動くあたりなど、細かいところで、きちんとドラマを積み上げているのです。

そういう物語の面白さもさることながら、この映画の中で感心したのは、登場人物の一人一人に人間としての息遣いが感じられることでして、この主人公を中心に、妻、新進女優、レイミー警部、さらに、主人公にイチャモンつける娼婦やその用心棒、その他警官の皆様といった面々に、ニューヨークで生きている人間としてのリアルな存在感があるのです。脇のキャラクターまできっちりと奥行きを持たせることで、単なるサスペンススリラー以上の厚みのあるドラマを作り出すことに成功しているのです。だからこそ、電話の向こうの存在の非現実感が際立つというあたりのうまさは、最近のサスペンスものの中では出色と申せましょう。分割画面によって、電話ボックスの周囲の状況を一度に見せるという演出も、ドキュメンタリー風のリアルな見せ方として、ドラマに貢献しています。

電話の向こうの声を、キーファー・サザーランドが非人間的な不気味なキャラで演じきっていました。悪意の塊にユーモアをまぶしたようなこの脅迫者が、最後までその真意を見せないところは、一種のサイコホラーなのですが、映画はそのサイコ性には重きを置かず、あくまでこの悪魔に翻弄される主人公の心の動きを追っていきます。まあ、その分、脅迫者のキャラクターは弱くてその行動には説得力を欠く部分があるんですが、スチュの物語をドラマチックに見せることで、そのあたりのアラをうまくカバーしたということもできましょう。最後に、スチュは生き残ることができるのか、それは本編をご確認頂きたいのですが、観客の期待を裏切る結末にはなっていません。

ともあれ、携帯電話の普及によって、どんどん電話ボックスが減っていまして、アンチ携帯派の私としては、腹立たしい限りなんですが、そんな過渡期のタイミングをうまく捉えた映画といえましょう。ドキドキハラハラだけで見せる、1時間21分という短い映画ではあるのですが、その中できちんと人間ドラマも描けているあたりに演出のうまさを感じます。マシュー・リバティークによる青みがかったシネスコ画面が現場のリアルな空気感を運んできて、映像的にも見応えがありました。秋も深まってからの公開映画って、正月映画までにつなぎなんですが、その中に佳品があるから、短い公開期間でも見逃せません。去年は「フレイルティ盲執」がありましたが、今年はこれですね。とはいえ、結構大きなチェーンでの公開になってますから、つなぎという言い方不適切かな。


お薦め度×基本はサスペンスだけど、キャラの描き分けが丁寧で見応えもあり。
採点★★★★
(8/10)
1時間21分の中に色々な要素を手際よく盛り込んだ脚本&演出の妙。

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