written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
時は1941年、ドイツは破竹の勢いでヨーロッパを侵攻し、アメリカも参戦ムードが高まってきていました。優秀な若きパイロット レイフ(ベン・アフレック)は親友ダニー(ジョシュ・ハートネット)と、恋人の看護婦イブリン(ケイト・ベッキンセール)を残して英国空軍へと志願していきますが、あえなく撃墜され、その知らせを聞いたイブリンは失意の底に沈みます。そんな彼女をダニーは励まし、そして愛するようになっていきます。イブリンもそんなダニーの気持ちに応えるようになり、二人は結ばれます。一方、日本軍はアメリカを叩くべく真珠湾に空母を向わせ、奇襲攻撃で一気に戦況を日本に有利に運ぼうとします。そんな真珠湾攻撃の運命の日の前日、奇蹟的に生き延びたレイフが、イブリンとダニーの前に姿を現したのです。
何はともあれ、話題作でして、予告編を観たときは、日本軍は「アルマゲドン」の隕石扱いかとも思ったのですが、あちこちの評判では、日本は悪者であり、その上、考証もムチャクチャで国辱的な映画になっているとかなっていないとか。一方、テレビのコマーシャルでは若いカップルが「感動しました」なんて言ってるし、一体どういう映画やねんと思いながら、3時間は長いしなあと思いながら観そびれていました。それで、やっと対面した本編なんですが、もっと問題作を期待したのに肩透かしを食わされたという感じでした。ただ、日本公開版はオリジナルから反日部分を手直ししたというふうにも聞きましたので、その分は割り引いた方がいいでしょうけど。でも、アメリカの娯楽映画で、真珠湾攻撃を描けば日本が悪役になるのは当たり前でして、それをとやかく言っていてはどこの国も戦争映画なんか作れなくなります。また、日本の描写が変なのも、これハリウッドの長年の伝統でして、今回が特別に日本に悪意を持って描かれているわけでもありませんでした。
まず、映画は主人公たちのラブロマンスを中心に展開します。それと並行して日本軍の動きがインサートされ、またホワイトハウスの様子も描かれていきます。日本やホワイトハウスの動きはメインのドラマのサブプロットにもならない扱いなので、「トラトラトラ」のような開戦までのサスペンスを期待すると肩透かしを食ってしまいます。むしろ、歴史に翻弄される3人の男女を描きたかったようなのですが、これが絵に描いたような展開なのです。絵に描いたような展開も絵がきれいならいいのですが、主人公3人が絵空事を支えるほどの魅力を持ち得ず、リアルなキャラクターに見えてしまうので、結局、ウソ臭さの方が先に立ってしまいました。特に、ラストに向けての展開はひどいなあと思いました。歴史に翻弄されるというよりも、脚本家に翻弄されてしまっているように見えるのは、この登場人物よりも、映画そのものに反感を覚えてしまいましたもの。
それでも、真珠湾が攻撃される段になると、ドラマ的に盛り上がってきます。突然、轟音とともにやってくるゼロ戦の大編隊、魚雷による攻撃で吹っ飛ぶアメリカ艦隊、戦艦の中に閉じ込められる者、吹っ飛ばされる者、機銃掃射の的にされる者、このあたりの描写はかなり容赦ないものがありました。ILMによる視覚効果もあいまって、迫力ある見せ場になっています。特に機銃掃射の怖さは音響効果もあって、かなりの臨場感がありました。また、攻撃後の生存者の救助とか病院の修羅場も見せるのが意外でした。ただし、マイケル・ベイの演出は、こういう悲惨なシーンもあくまでMTV的な見せ方をするので、そこだけ悲惨さが際立つこともない代わりに、真珠湾攻撃自体の重みも薄れてしまったように思います。
真珠湾攻撃での見せ場は、レイフとダニーが日本軍に一矢報いるべく、戦闘機でゼロ戦を何機か撃墜するところです。ただし、ここを見せ場にしても、その後に真珠湾の惨状の描写になるわけで、カタルシスに結びつかないのは娯楽映画としてはどうなのかと思っていると、この映画の作者も同じことを思ったらしく、その後の東京空襲までを描いて、娯楽映画としてのフォローをしています。しかし、この帳尻合わせがドラマとしての盛り上がりを欠いてしまう結果になったのは残念です。
マイケル・ベイの視覚優先のスタイリッシュな演出と、古色蒼然とした物語がうまく噛み合っていなかったということでしょうか。さらに、気になったのは、最近のアメリカ映画によくあるシネスコ画面が狭苦しいこと。「蝶の舌」できれいなシネスコ画面を見たばかりだったので、余計目に上下の狭苦しい絵がうっとうしかったです。普通の会話でもクローズアップみたいな寄り方をするので、まるで盗撮のように見えてしまうのです。また、脇役陣にジョン・ボイト、ダン・エイクロイド、トム・サイズモア、ピーター・ファース、ウィリアム・フィッチナーといった曲者を揃えた割には、あまり印象に残る使われ方をしていないのが残念でした。
お薦め度 | ×△○◎ | マイケル・ベイ演出にしては盛り上げ所が少ないぞ。 |
採点 | ★★★ (6/10) | 歴史絵巻を狙ったみたいだけど何かこじんまりした印象。 |
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