パニック・ルーム
Panic Room


2002年05月11日 神奈川 藤沢オデオン座 にて
大富豪のいたおうちに引っ越してきたら初日からもう大変。


written by ジャックナイフ
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夫と離婚したサラ(ジョディ・フォスター)は娘のサラと共にかつて富豪の老人が住んでいた家に引っ越してきます。その家には、避難用シェルターのようなパニックルームという部屋が作りこまれていました。そして、二人が引っ越してきた夜、3人の男がその家に押し入ってきます。この家には先住人のお宝が眠っているらしいのです。何とか、パニックルームに逃げ込んだ母娘なんですが、3人はまだ居座っています。そのお宝って、ひょっとしてパニックルームの中?

「セブン」「ファイト・クラブ」などで有名なデビッド・フィンチャー監督作品です。それにタイトルが「パニック・ルーム」ですからね。また、観客の度肝を抜くようなことをするんじゃないかという期待があったのですが、実はこの映画、奇をてらった部分はなく、かなりストレートなスリラーになっています。パニックルームに立てこもったヒロイン母娘と三人組の侵入者の攻防がメインとなります。登場人物は、母娘、3人組とも丁寧にキャラクターづけがされており、その駆け引きがサスペンスを呼びます。果たして、どうやって3人組はパニックルームのドアを開けさせるのか、それとも、母娘が3人組を追い払うのか。

全編、一晩の家の中だけで展開する舞台劇のような設定ですが、ここでフィンチャーは、キャメラを縦横に動かして動的なサスペンスを生み出すことに成功しています。場面数は少なくとも、同じような絵で退屈することはありません。その仕掛けの部分で描かれるストーリーはあくまでか弱いヒロインが3人の男を向こうに回して、どう闘うのかというところがメインとなります。ジョディ・フォスター演じるヒロインの度胸の坐った対応ぶりは、両者の闘いを五分五分にまで引き上げて、一発逆転というのではなく、常に勝負のテンションが高いあたりがうまい構成になっています。その一進一退の攻防は劇場でご確認頂きたいのですが、フィンチャーの演出は職人のような緻密なカットのつなぎ、積み上げでなかなかに見応えのあるものになっています。

ただ、ちょっと面白いと思えたのは、登場人物のキャラクターづけでして、普通なら、ヒロインの母娘に観客は感情移入しながらハラハラドキドキするものですが、このヒロイン母娘って、あまり共感を呼ぶキャラになっていません。娘は小生意気でうっとうしいし、母親もどこか冷たさを感じさせるキャラなのです。むしろ人間臭いのは3人組の方で、特に黒人のバーナムという男の分別ある行動、言動に感情移入してしまうのです。善人役の多い、フォレスト・ウィテカーがこのバーナムを好演していまして、ドラマは彼を中心に回っているような印象を受けます。彼が何をするのか、何を考えているのかが、常にドラマの展開のカギになっているので、いつのまにか、彼の方に肩入れしてしまい、ラスト近くでは、彼を応援したくなりましたもの。

しかし、バーナムはついにヒーローとなることはありません。その結果、この映画の後味が大変クールなものになりました。もう一人、この映画の中で後半に登場するキャラクターがいまして、その人物もバーナム同様、感情移入できるキャラになっているのですが、フィンチャーの演出はこの人物も突き放して描きますので、ハッピーエンドの筈なのに、そういう気分になれないのです。そこがフィンチャーの狙いなのかもしれません。当初、ジョディ・フォスターではなく、ニコル・キッドマンで撮影を開始していたとのことですが、キッドマンだったら、後味はさらにクールなものになったことでしょう。

物語の発端からすれば、窃盗事件にもならなかったものが、ボタンの掛け違いの連続でどんどん血生臭いものになっていくという展開は定石ではあるのですが、上記のような人間関係のおかげで、一味違うサスペンスになりました。


お薦め度×変化球得意のフィンチャー監督が、今回は直球で勝負?
採点★★★☆
(7/10)
映画全体を流れるクールな視点がちょっと面白い。

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