written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
久しぶりの休暇をとったスーザン(ブランチャード・ライアン)とダニエル(ダニエル・トラヴィス)の夫婦はカリブ海に出かけました。二人はダイビングのツアーに出かけ、海中散歩としゃれ込んだまではよかったのですが、ツアーのボートで人数を数え間違えてしまい、二人を置いてボートは帰ってしまったのです。後は陸の見えない海のど真ん中に二人だけが取り残されてしまいます。足元には鮫がうようよしている海のたった二人きり取り残された夫婦の運命やいかに。
予告編を観たときは、ものすごい恐怖映画のような見せ方をしてましたけど、雑誌なんかでは、海の「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」だとか書いてあるし、一体、どういう映画なのかと若干の不安と期待でスクリーンに臨みました。79分というコンパクトな上映時間が魅力だったってのもあるんですが。
オープニングからして、夫婦が旅行に出かけるシーンがデジタルビデオによる絵なので、どうもチープな感じです。「ああ、金のかけ方がブレア・ウィッチなのかな」とも思ったのですが、そこから先もドラマは非常に淡々と進んでいきます。確かに普通の映画のようなドラマを積み上げていくというよりは、再現ドラマを見せられているような作りになっています。ドラマはそのまますぐにリゾートに移り、テキパキと展開して、すぐにダイビングシーンになるあたり、余計なものが一切ないという点は買いですが、何だか淡白だなあって感じでした。
後半は海に取り残された二人だけのドラマに絞り込まれます。実際に外洋で撮影したという漂流シーンはリアルでして、主人公の視点だと、あまり遠くまで見えないというあたりが怖さを運んできます。漂流シーンでもっと二人の間にドラマチックな展開を見せるのかと思いきや、そうはならないところが面白いと思いました。確かに二人が仲違いしたり、それでもお互いを守りあったりするシーンはあるのですが、二人の人間が極限状態でどう感じてどう行動するのかという見せ方にはなっていません。むしろ、海の中で孤立してしまったことの焦燥を客観的に見せようとしているようです。海の怖さをある程度知っていると余計目に怖がることができる映画である一方、海を知らない人に誇張した恐怖を与える映画ではありません。
視覚的には、海に浮いてる二人を延々と映すだけの映画です。そして、そこでこけおどしの恐怖や愁嘆場といったものを排しているあたりがこの映画の見識と言えましょう。ただし、その分、即物的な怖さは少ない映画になりました。自分の足のすぐ下に鮫がうようよ泳いでいるという怖さを演出で増幅させることをせず、あくまで、主人公の視点(あまり水中の様子が見えない)で描いているあたりは、記録の再現的な作りになってます。もっと、時間の経過をうまく見せれば、延々と水中に置いてけぼりの怖さが出たのかもしれませんが、妙に間の空いた時間を作らない構成は、二人の絶望的な状況を伝え切れていない点がありました。夜間シーンなんて相当怖い見せ方だったのですが、時間的にちょっとしかないのが物足りなく感じましたもの。
ただし、設定からすればこれは怖いです。何しろ、海のど真ん中で置いてけぼりです。視線は水面近くにしかありませんから、ちょっと波が立てば、視界はものすごく狭くなってしまいます。そして、足元には鮫やくらげがうようよしていて、鮫は自分をえさにしようとしているのです。二人とも気が狂いそうになるのを何とか耐えようとするのですが、それも長続きはしません。夫婦間の愛情なんてものも段々と意識の奥底に沈みこんでいってしまう、でも人としての生存欲だけは残っている、という感じが、釈然としないラストに不思議な説得力を与えています。役者も有名どころではないですし、演技力があるのかどうかもよくわからなかったのですが、こういう映画の作りもあるなあと感心させられました。ただ、それは設定と見せ方の面白さであって、映画そのものの良し悪しとは違うところにあるあたりが、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」と似ていると思った次第です。
お薦め度 | ×△○◎ | 淡々と事件を描写するパワーは感じるけれど。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 恐怖映画みたいな売り方はいかがなものか。 |
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