written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ソ連のスプートニクの打ち上げ成功で、アメリカの中でも宇宙への関心が高まっていました。炭坑の町の高校生ホーマー(ジェイク・ギレンホールド)もロケットへの興味から、友人たちと手製のロケットを作ろうということになります。この町の子供たちは大体が炭坑夫になるか、まれにフットボールの奨学金をもらって進学するしか選択の余地がありません。ホーマーは父のような炭坑夫になりたいとは思っていません。いつかはロケットで身を立てたいと漠然と思うようになりました。しかし、ロケットは思うように飛ばないし、父親はそういうホーマーの意志を認めてくれません。さらに父親が事故で大怪我をし、家計を助けるために学業を断念し、炭坑で働くようになるのですが.....。
実はこれ、NASAのエンジニアの少年時代を描いた実話をもとにした映画なのです。1957年のソ連の初の人工衛星打ち上げ成功は、新しい時代の始まりでした。その時代の波は、コールウッドという炭坑町までは、なかなか届かないのですが、それでも、そのニュースを聞いて、ロケットを作りたいと思う高校生がいたのです。父親は人望も厚いベテラン炭坑夫で、兄はフットボールのスタープレーヤーで奨学金がもらえそう、そんな中で、主人公は今一つぱっとしないのですが、このままでは炭坑夫になるしかない。でも、彼は自分が炭坑夫で終わりたくないという気持ちを持ちつづけていました。そして、彼は自分のやりたいことを見つけます。それがロケットで、友人たちと一緒に打ち上げ実験を始めるのですが、なかなか思うようには行きません。打ち上げたロケットが街に飛んでいって大騒ぎになり、父親はロケットの実験を禁止してしまいます。
それでもめげずに実験を続ける主人公たちというと、「好きこそモノの上手なれ」の青春ものにとどまるのですが、この映画では、そこに主人公と父親の人生の選択の葛藤を加えて、さらに人の生き方にまで踏みこんだドラマになっているのです。クリス・クーパーが熱演した主人公の父親は、生まれついての炭坑夫で、それなりの地位も人望も実力もある人物です。多くの人命を預かる仕事へのプライドと責任感は誰にも負けません。そして、そんな父親を息子が継いでくれることを望んでいるのですが、当の息子は、ロケットなんていう現実離れしたものにうつつを抜かしているのです。当然、息子の行動はうれしくはないのですが、そんな父親が主人公のために何かをするシーンがあって、これが泣かせるのですよ。親子という言葉では測りきれない人と人との絆がこの二人にはあるようです。この父親を、単なる昔かたぎの頑固オヤジにしなかったところにドラマの奥行きが出ました。特にラストで、父親に多くを語らせない演出が見事で、ラスト30分はほとんど泣かされっぱなしでした。
ホーマーは父親の怪我がもとで家計を支える必要から、学業を断念し、炭坑で働くようになります。しかし、ここでも彼の夢への情熱の火は、完全に消えることなく、微かに燃えつづけていたというところが圧巻です。炭坑での日々の生活に埋没してしまいそうになるロケットへの情熱がまた燃え上がるのです。
彼にとって幸運だったのは、彼を支持する人がいたこと、友人たち、母親、炭坑で働く人々、学校の先生、彼らがいたからこそ、ホーマーは自分の夢の火を消さずにおくことができたのです。そこを、この映画は静かに、でもきちんと描いています。特に、ロケットオタクの変な友人クエンティンがいいんですよ。彼がホーマーを色々な点でサポートするのですが、決して表舞台には立たず、でも、ホーマーの成功をうれしそうに見つめるという役どころをクリス・オーウェンが好感の持てるキャラクターとして演じきりました。ホーマーを演じたジェイク・ギレンホールドのほどほどの普通っぽいルックスで、情熱を秘めたキャラクターを、好演している点も見逃せません。また、地味なキャストのこの映画で、一番名前が知られていそうなローラ・ダーンが演じた高校の先生が大変印象的でした。これらの主人公を支えた人々が、みな実在した人々だというのが驚きであり、この映画が観ていて気持ちがいい理由でもあります。
また、このロケットという設定がいいのですよ。空の彼方へと飛んでいくというのが大変ロマンチックであり、一方の地の底での石炭採掘という作業との見事なコントラストを成しています。SFXアーチスト出身のジョー・ジョンストンの演出は、オーソドックスなドラマを丁寧に積み上げながら、要所要所をきちんと盛り上げています。これまでのSFX中心の映画「ロケッティア」「ジュマンジ」などとは異なる正攻法の骨太な人間ドラマを作り出す手腕は並々ならぬものがあります。また、マーク・アイシャムの音楽が、バイオリンのソロを印象的に使ったオーケストラスコアで、ややノスタルジック入った音が、静かにこのドラマを支えています。
お薦め度 | ×△○◎ | 全編を流れる品の良さで誰にでもオススメできます |
採点 | ★★★★☆ (9/10) | 夢は捨てないことに意味がある? |
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