written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
仮出所中のオーシャン(ジョージ・クルーニー)は、仲間を集めてまたしても大仕事を企んでいるようです。今回のターゲットはカジノの金、それも一億五千万ドル。彼の相棒ラスティー(ブラッド・ピット)はターゲットなるオーナー、ベネディクト(アンディ・ガルシア)の横にいた女性を見てびっくり。だって、それはオーシャンの元妻テス(ジュリア・ロバーツ)だったのです。単に金目当てのプランではなさそうなのを察知したラスティーはオーシャンを外そうとします。そして、遂に決行の日がやってくるのです。
スティーブン・ソダーバーグという人は「エリン・ブロコビッチ」「アウト・オブ・サイト」といったちょっと変化球の入った娯楽映画を作る人で、「トラフィック」ではシリアスな群像ドラマを撮って、多才なところを見せました。そして、今回は群像ドラマであり、典型的な娯楽映画であるこの作品はかなり期待させるところありました。その上、役者が、クルーニー、ブラピ、ロバーツにマット・デイモンと豪華なメンツを集めて、その顔あわせも楽しめるものになっています。
この作品を痛快な泥棒映画だと位置付ければ、地下の金庫に眠るお宝までどうやってたどり着いて、どうやって金を取って、どうやって逃げるのかというところがそのサスペンスの見せ場となります。このあたり、脚本は二転三転するトリックを用いて、観客をうまくミスリードすることに成功していまして、土壇場まで、仕掛けの全貌がわからないように構成されています。特に陽動部隊の動きが面白く、なるほど11人必要なのはこういうわけだったのかという絵解きもきちんとされるあたりは、意外(?)と論理的な展開になっていました。
じゃあ、映画を観てる間、観客はドキドキハラハラの連続だったかというと、少なくとも、私は全然そんなことなかったのです。そして、そこがこの映画への最大の不満になりました。個々の役者が楽しんで演じている余裕のようなものは感じたのですが、そのアンサンブルだけでは、この映画は成立しないと思うのです。やはり、メインの盗みの部分でドキドキハラハラさせて欲しかったのですが、ソダーバーグの演出は、緩急のない淡々とした演出で、せっかくのストーリーを生かしきれていないという印象でした。盗んだ後のエピローグがやたら長いのも、多分、盗みの部分へのドラマの比重が低いからだと思うのですが、これなら、去年の「スコア」の方がずっと面白かったように思います。金庫破りの準備、下調べから、決行までを見せる構成ということでは同じなんですが、「スコア」の方が、ずっとハラハラドキドキの要素があって楽しめました。
むしろ、そういうドキドキハラハラの部分をカットしたようなところがあって、役者をバランスよく見せる方を重視しているように思えます。ジョージ・クルーニーが最後まで映画を仕切っているので、彼の比重が一番なんですが、後の連中は全員脇役でして、その中で、ピットやデイモン、ロバーツを立てるのに苦労しているようです。特にブレインとして決行時の総指揮をとるピットの扱いが、やや半端な印象を受けました。ガルシアが唯一人の敵役として好演していますが、もっと徹底的にワルになってもいいように思いました。クルーニーと対峙した時点で既に勝負あったというふうに見えてしまうのは物足りなく、何だかガルシアの方が「いい人」に思えてしまいましたもの。
撮影はデビッド・アンドリュース名義でソダーバーグ自身が担当していますが、ラスベガスを舞台にしている割りには絵に華がないという感じでした。ストーリーは単純娯楽エンターテイメントなのに、演出も絵も何か別のものを狙っているように見えてしまいました。デビッド・ホルムズの音楽も、特に前半が垂れ流しという感じでメリハリがなく、最終的にジョージ・クルーニーだけがおいしかった映画というところに落ちついてしまうようです。
お薦め度 | ×△○◎ | 役者の顔ぶれでとりあえず楽しめます。 |
採点 | ★★★ (6/10) | 面白い脚本なのにハラハラドキドキがないのは演出の狙いなのか? |
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