ノロイ
Noroi


2005年09月06日 神奈川 川崎チネチッタ6 にて
怪奇作家が謎のビデオを残して失踪しました。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


怪奇作家の小林雅文の家が火事で焼け、彼の妻の焼死体が発見されますが、彼自身は行方不明となってしまいます。彼は、失踪直前「ノロイ」という名の心霊ビデオを残していました。そこでは、赤ん坊の泣き声が聞こえる家の取材から、実際に放映されたテレビのシーンなどが収録されていました。失踪直前、かれは「かぐたば」なる霊とも妖怪ともつかぬ存在を追っていたようなのです。そして、失踪後、さらに失踪中の小林から、追加のビデオが送られてくるのですが。

「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」というアメリカ映画がかつて大ヒットしたことがありました。失踪した3人の残したフィルムとビデオをまとめたという設定で、超自然現象を取材に出かけた3人が遭遇する不気味な出来事を描いたドキュメンタリーとなっていました。でも、実際、エンドクレジットでは出演者やスタッフが出てきて、実はこれ、全部でっちあげのフェイクドキュメンタリーだったとわかるようになっています。「ノロイ」は発端からして、行方不明になった人のビデオを観るという設定で、この映画を想起させます。でも、そこで小林が取材に出かけるビデオが始まると結構ホンモノっぽい展開を見せます。

また、テレビ放映された超能力実験、没になった心霊番組などが挿入され、それらが一本の糸につながってくるあたりはミステリーを見る面白さがあります。超能力少女の失踪、心霊番組に出た女性タレント(松本まりか)の周囲に起こる不思議な出来事、見るからアブナそうな心霊能力者の言動、これらのバラバラな出来事が信州のある村の伝説「かぐたば」に集約されてくると、すっかり映画にとりこまれてしまいます。これは、小林が製作した心霊実録ビデオが面白いってことになるんですが、面白いと思ったのは、この「心霊実録ビデオ」ってホンモノなんじゃないの?って思わせるところ。もし、これがただのテレビ番組だったり市販のビデオだったりしたら、「結構ヤラセ入ってるんでしょ?」ってツッコミ入れるところなのですが、映画の中で観るビデオという設定にしたら、なぜかリアリティが増すのですよ。これはちょっとした発見でした。

そして、小林の残したビデオは「かぐたば」に対して一つの見解を示して終わるのですが、その後、本人が失踪しちゃうので、どうにも締まりがよくありません。ところがさらに送られてきたビデオに怖ろしい事実が語られていたのでした。これはなかなかに怖かったです。

と、まずは素直に観るとそういうことがホントに起こったんだろうなあってことになるんですが、実はかなりの部分が作りというか再現だろうなってところは、観てる最中にわかっちゃうのですね。「ブレア・ウィッチ」に比べると、日本というのは身近すぎて、ウソをつきとおすのが難しいのかもしれません。どうして、ああいうシーンでビデオを回し続けられるのか、どうして、無造作に置いた筈のビデオカメラのフレームに事件の全貌が納まっているのかといったところは、もう少し工夫の余地があったのかもしれません。

登場人物は一応無名の人はかなりリアルな演技を見せてまして、特に小林を演じた人のリアルな存在感は見事でした。一方、実名登場の松本まりかが、いかにも「うまい演技してます」という芝居を見せるのは興ざめと言わざるを得ません。怪しげな他の人物の中で彼女だけがヒロインしてるのですよ。演技力があるのですが、それはあくまでドラマの中で生きる演技力であり、フェイクドキュメンタリーを盛り上げるものではなかったようです。そういう意味では、超能力少女も達者すぎたという感じでしょうか。アブナい霊能者とか事件のカギを握る中年女がアブナいなりのリアリティを持っていたのですが、ヒロイン二人が浮いてしまったようです。

ドラマだと音響や演出でビックリさせたりすることが多いのですが、こういう映画では、ドラマならではの演出は使えませんから、リアリティのある雰囲気作りが重要となります。その部分はかなり成功してまして、最初に訪れる家のいかにもありそうな雰囲気とか、偽テレビ番組のいかがわしさ、そして、適度に伝説っぽい「かぐたば」の存在などリアルな存在感があります。でも、それは心霊現象を描く映画としてのインパクトを欠いてしまうということにもなります。後半で強引に霊の映像を見せたのはある種の開き直りかもしれませんが、ハッタリとリアリティを両立させることの限界を見せたとも言えそうです。また、設定だけでなく、展開や映像に「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を想起させるものが多く、「ブレア・ウィッチ」を知らない人にはリアルに感じられても、知ってる私には却って胡散臭く感じられてしまいました。でも、こういう映画のいかがわしさには映画ならではの楽しさがあります。DVDになってしまったのを家のテレビで観たらウソ臭さが先に立ってしまうだろうこの映画も、劇場で観ることでかなり楽しめましたもの。


お薦め度×いわゆるフェイクドキュメンタリーなんですが、見せ方に気を使っていて楽しい。
採点★★★
(6/10)
「ブレア・ウィッチ」との共通点が多いのが今一つなのかも。

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