リーベンクイズ
日本鬼子


2002年09月14日 神奈川 シネマ・ベティ にて
元日本軍兵士が中国大陸で何をしてきたのか。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


昭和初期、日本は中国へ派兵し、その権威を拡大しようとしていました。中国へ渡った日本兵は現地で一体何をしてきたのか。軍事行動というより、各将兵の行動にフォーカスを当て、元日本兵に彼らの行動をインタビューした記録をまとめました。その内容は中国の一般市民に対する暴行、略奪、虐殺行為でした。なぜかはこの映画は問いません。ただ、そういう行為を自分たちがやってきたという証言をまとめたものです。70代から80代の普通の老人たちが語る、中国でなされた恐るべき行為の実態とは?

これは現代を舞台とした記録映画です。日中戦争当時の記録映画ではありません。かつて、日本軍兵士だった老人たちが、過去に中国大陸でどんなことをしてきたかを淡々と語ったものです。一般市民の家を焼き払ったり、人体実験に使ったり、虐殺、強姦、略奪の証言なのです。これがもし本当なら、日本軍の兵士は人でなしの行為をしてきたことになりましょう。語られる証言は、同じ日本人として衝撃的なものです。かつて、中国映画「紅いコーリャン」を見たとき、極悪非道の日本軍が登場するのを見て、これは中国のプロパガンダなのかとも思ったことがあるのですが、どうやらそれだけでもなさそうです。

ただし、この映画とオープニングとエンディングには演出があります。オープニングは終戦記念日の靖国神社の光景、そして、ラストは中国で捕虜になった兵士が中国側の温情措置で、厳罰を免れたという記録フィルムです。この映画はある意図を持って作られたのであろうことは、多分間違いないと思います。ですから、この映画で語られた全てが100%の真実であるかどうかというのは、難しいところかもしれません。これはこの映画はペテンだというのではありません。今や、テレビのニュースですら、事実を恣意的に脚色して、ある意図のもとに視聴者を誘導しようとしています。映画にしろ、報道メディアにしろ、その送り手の意図による加工がないということはあり得ないのです。ですから、その一言一句を捉えて、真偽を吟味することは、まず不可能ですし、無意味だとも思っています。

にもかかわらず、この映画の持つ説得力の大きさは否定できないものがあります。今も、ボスニア戦争での民族浄化、クメール・ルージュの虐殺、北朝鮮の収容所などで、行われる非人間的な行為は後を絶ちません。日本国内でも、発生する鬼畜のような殺人事件、人間として信じられないというのは簡単ですが、だから、自分とは無関係だと思っていると、その辺にいる老人が実は中国でとんでもないことをしてきたと聞かされるとかなりのショックです。海の向こうの残虐行為が他人事でなくなってくるのです。

なぜ、虐殺、強姦、略奪といった人でなしの行動が取れるのか。この映画の中でも、その理由がある程度語られます。まず、そういう人でなしの行為をみんながやっていて、自分だけやらないで済ませることができない、また、そうすることで周囲に認められるという空気があったのだそうです。会社での出世のために、倫理に反する行動をとるというのは別に珍しいことではありませんが、それと同じことだというのです。さらに、中国人を、日本人と同じ人間として扱わない、だから後ろめたさもなく簡単に殺せてしまうという発言もありました。自分の理解できない言葉で、命乞いをすがってきた中国人をかっとなって殺してしまうといった証言を聞いていると、不快ではあるのですが、今も戦争での残虐行為がなくならないということが、納得できてしまうのです。昔の日本軍の行為、そして、今の日本人の行動、そして、世界各地で起こる戦争時の残虐行為、これらが、老人たちの証言によって、全てがつながってくるのです。他人事だと思っていた残虐な行為の可能性を、自分の中に見つけてしまうのです。この恐るべき説得力は、本編をご覧になって確認して頂きたいのですが、説得力があるというのは、もし自分がその場にいたら同じことをしたであろうという怖さにつながるのです。そして、その怖さに対して、不感症であってはいけないと思うに至りました。

この映画で、証言する老人たちの動機についてはあまり語られません。ただ、正式な記録としては残っていないであろう、こういう兵士たちの残虐行為は、実際の当事者が生きているうちに記録を残さなければ、永久に闇に葬られてしまうでしょう。その意味で、松井稔監督がこの映画を作った意味は非常に大きいと思いますし、普通なら語られないであろう事件について言及した元兵士に対して、敬意を表したいとも思いました。

この映画で語られる残虐な行為の真偽のほどについては、議論の余地もあるかもしれませんが、映画から学ぶべきところ、目を背けてはいけない部分は確かにあるのです。ウソかホントかに拘泥してしまうと、この映画の価値を見誤ってしまうように思いました。


お薦め度×ウソかまことか、でも強烈な説得力。
採点★★★★
(8/10)
今作っておくことに価値のある映画。

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