written by ジャックナイフ E-mail:64512175@people.or.jp
恋人に振られたばかりの看護婦エリン(ホープ・デイビス)は、ママが勝手に出した恋人募集の広告に集まってきた男たちと会ったりしてはみても、今一つ気が乗りません。運命の出会いなんてまるで信じていない彼女です。一方、中年にさしかかってから大学に入った元配管工のアラン(アラン・ゲルファント)は、水族館でボランティア活動をしながら、海洋生物学を勉強中です。そんな二人はニアミスはあってもお互いの顔も素性も知りません、でも観客はこの二人に恋の予感を嗅ぎ取ります。なのに、二人は出会えない、ちょっとこのまま映画が終わってしまったらどうすればいいの?
恋愛映画の定番なら、まず出会いがあって、ちょっとうまくいって、問題が発生して、最後は丸く収まるという、起承転結があるのですが、この映画はちょっと、いえいえかなり変わった趣向のラブストーリーです。普通のラブストーリーなら、定番の起承転結の中で、主人公二人のキャラクターなり過去なりが語られていくのですが、この作品では、起承転結の起の前でそこのところを語ってしまおうというわけです。
ヒロインのエリンは一緒に暮らしていた彼氏にフラれて、新しい男が欲しいとは思うけど、なかなかいい出会いがありません。そんな彼女の日常のスケッチをブラッド・アンダーソン監督は丁寧にそしてリアルに綴っていきます。妙に斜に構えているわけじゃないけど、本当に愛する人に出会いたい、でも運命の恋なんて信じられずにいるというヒロインはリアルな存在感があります。一方のアランはエリートとは程遠いキャラクターですけど、誠実で有能な人間として描かれます。そんな二人がニアミスを繰り返しながらも、なかなか出会うことができません。できませんというのは適切な表現ではないですね。何しろ、出会いたいと思っている登場人物はいないのですから。ただ、観客だけが、こいつら、いつか出会って恋愛ドラマに発展するんだろうなと思いながら画面を観ているわけです。
ヒロインの母上というのがまたちょっと変わっていて、自分の娘の彼氏募集の広告を勝手に新聞に載せてしまいます。そして、その広告に色々な男性が電話で申し込んでくるのが、楽しい趣向になっています。実は既婚者だったり、仲間同士で賭けをしていたり、何だかスゴク変なやつだったり、ああ、いるよなあこういう連中と納得できる個性のきつい皆様が、ゾロゾロと登場して笑いをとります。この男性陣に共通しているのが何と言うのかな、落ち着きがないのですよ。私も中年真っ只中の独身オヤジなのですが、妙に親近感を覚えてしまったのは、アメリカも日本もこのあたりの男性事情は大差ないということなのでしょう。自分のことばかり語って、人の言葉に耳を傾けない、たまにそういう人だと思ったらそれが商売だったというのが笑えましたもの。
アランの方は、親がギャンプル狂いで、息子にも迷惑をかけるという困った親で、怪しげな金貸しが彼につきまとっています。このあたりの展開は日本でもありがちなシチュエーションではないかしら。そんな状況にもアランは真摯に対応します。おお、何だかすごくいい奴じゃんと思わせるけど、あんまり見た目はパッとしないというのが、面白いところです。学校でもマジメな学生さんぶりで、派手なオネーちゃんにマークされて言い寄られてしまったりするのですが、そんな誘惑にも彼はいい人として振るまい、かつ彼女の色香に迷わない堅物ぶりがおかしくも好感度大です。
映画のあちこちで、ニアミスする二人ですが、ヒロインがアランに好意的な視線を送るシーンもあり、こうなると、何とか、ヒロインがこのアランに出会って欲しいという気分になってきます。出会って欲しい二人が出会えない、そうかー、こういうドラマの作り方もあるなあって、感心してしまいました。ボサノバのリズムにのせて軽やかに展開するドラマ、そして、予定調和を裏切らない結末まで、暖かくわくわくさせてくれる映画に仕上がっています。ウィークデイの最終回、仕事帰りに観たのですが、そういう鑑賞の仕方がしっくりとくるしゃれた小品という感じでしょうか。
気になったエピソードでは、「本を開いたら、何も読まないままで閉じるな」というのが印象的でした。その後で、ヒロインが無造作に本を開いて、そこからインスピレーションを得る(ひらたく言えば、本占いですね。)シーンが何度も登場します。これをいい大人がやって、ちょっと切なくもロマンチックに見えるあたりが、演出のうまさだと思った次第です。
お薦め度 | ×△○◎ | 観終わって思わず顔がほころんでしまったのは私だけ? |
採点 | ★★★★ (8/10) | 恋に恋するのは若者だけの特権ではないというのがうれしい一品。 |
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