NARC
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2003年06月07日 東京 日比谷スカラ座2 にて
麻薬捜査官の死にまつわる骨太なサスペンス。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


舞台はデトロイト。麻薬の潜入捜査で売人を追跡中、妊婦を撃って流産させ、現場から遠ざかっていたニック(ジェイソン・パトリック)に、麻薬捜査官殺しの捜査が舞い込んできます。相棒になるのは、死んだ捜査官と親しかったというヘンリー(レイ・リオッタ)で、彼は荒っぽい捜査で知られており、この捜査にも猛烈な執念を持って臨んでいました。麻薬の売人ルートをたどっていくうちに、死んだ捜査官がどうやらよからぬことに手を出していたらしいことがわかってきます。でも、ヘンリーはそんなことは頭から否定してかかっているようです。そして、殺される寸前に彼に麻薬を売った男が割り出され、その男の潜む倉庫に乗り込む二人なのですが......。

ジョン・カーナハンという新人が脚本、監督を手がけた作品でして、クレジットでプロデューサの肩書きのつく人が10人以上いるといて、その中にレイ・リオッタやトム・クルーズも名を連ねています。映像は終始青みがかったざらついたもので、その画面の中で展開するのは、麻薬と暴力という殺伐そのものと言ってよい世界です。しかし、その世界は、浮世離れしたものではなく、人の生活感をきちんと描かれていて、暴力シーンも痛みを伴うリアリティがあり、かなり重い見応えがありました。主人公の私生活が細やかに描かれていて、愛情がありながら、破綻していく家庭の有様にも胸に迫るものがありました。カーナハンの演出はフラッシュバックの多用がカッコつけすぎのところもありますが、脚本を自分で書いている強みか、ストーリーを壊さないレベルに押さえています。むしろ、伏線や意表を突く構成といった脚本のうまさが光る映画になっています。

現場を避けてきたニックが久々に関わる事件としては、警官殺しはかなり重いものでした。しかも相棒は感情むき出しで、親友殺しの犯人を追おうとしているのです。ニックのキャラクターがきっちりと描きこまれているので、彼の苛立ちや倫理観に共感できるようになっています。死んだ麻薬捜査官には自分と同じように妻や子供がいて、どうしようもないクズのような連中を相手に命がけの仕事をしている。そんな、やりきれない思いが画面を通して伝わってくる一方、ヘンリーは何を考えているのかよくわからないところがあります。「信念の男」と呼ばれているらしいのですが、何か隠していることがありそう。そのあたりから、物語はミステリーの様相を帯びてきます。レイ・リオッタが体重を増やして、信念に狂気がきざしたようなベテラン刑事ヘンリーを熱演しています。

物語の後半、捜査官の死の直前に接触があったヤクの売人が判明し、その二人を追い詰めるところで、意外な展開となっていきます。そこまでに仕込まれた伏線が生きてきて、かなり説得力のある展開は、本編でご確認頂きたいところです。それまでのヘンリーのミステリアスだった部分、全てに一本筋が通るところが圧巻です。リオッタとしては、やりがいのある、おいしい役どころだからこそ、プロデュースも買って出たんでしょう。また、その役に応える名演となりました。また、下手をすれば、脇役になってしまうニックを、観客の視点と同化させるのに成功したジェイソン・パトリックの好演も光っています。また、脇を固めた、チ・マクブライドですとか、クリスタ・ブリッジス、アンナ・オープンショーといった女性陣も印象的でした。

それにしても、麻薬とは恐ろしいものです。直接、麻薬の怖さを描かなくても、この映画は麻薬の恐怖を皮膚感覚的に伝えてくるのです。刑事もの、犯罪ものという娯楽映画の形をとりながら、麻薬撲滅キャンペーン的な趣もある映画です。特にラストの意外性の中に麻薬に対する憎悪がきちんと描かれているあたりも感心しました。麻薬を呪う言葉や泣きのシーンもないけれど、麻薬や麻薬売人に対する怒りがストレートに伝わってくるのが見事でした。とはいえ、まず娯楽映画としてきちんと面白いというところは強調しておきたいです。特に、ラスト20分は映画としての醍醐味に溢れていまして、血生臭いドラマなので万人向けとは言えないのですが、観て決して損のない映画仕上がっています。


お薦め度×暴力の中から見えてくる、絶望と善意が圧巻。
採点★★★★
(8/10)
ラストが真実なのかどうかを考えさせるあたり、伏線の積み上げが見事。

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