ハリウッド・ミューズ
Muse


2000年09月20日 東京 日比谷スバル座 にて
ハリウッドの才能と成功の裏には女神様がいたのです。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


スティーブン(アルバート・ブルックス)は現在スランプ気味の脚本家。友人のジャックに相談したら、紹介されたのがミューズ(女神)だという女性サラ(シャロン・ストーン)。彼女が与えるインスピレーションで救われた映画人は数知れず、キャメロン、スコセッシなんて大物も彼女に助言を請いに来ます。ただ問題なのは、彼女のご利益を得るためには、彼女の言うとおりにしてご機嫌を損ねないことなんですが、これが金がかかるワガママ女神で、ホテルの最高のスイートやらリムジンのお出迎えやら、さらにはそれも気に入らなくて、家の寝室まで提供するハメになります。しかし、ご利益がいつ出るのかは不明でして、は我慢の限界。その上彼の奥さんの作ったクッキーを持ち上げた結果、彼女のクッキーは大評判になってしまいます。そんなある日、彼女を過去を知るらしい二人連れが訪れるのですが......。

ハリウッドを舞台にしたいわゆる内幕モノになるのでしょうが、ハリウッドを魔界のように描くブラックコメディとはちょっと違う、お気楽お笑いコメディになっています。スランプ気味で映画会社から契約を打ち切られてしまった主人公が藁をもすがる思いで、女神と呼ばれる女サラに相談をもちかけると、そこから先はサラに振り回されっぱなしで、オタオタするというもの。何だか、舞台劇でもありそうな設定で、ひょっとしたら何かの焼き直しなのかもしれません。わがまま女神さまに振り回される中年オヤジというのが、ありがちな感じではあるのですが、役者のよさで結構楽しく観ることができます。

共同脚本、監督でもあるアルバート・ブルックスは、才気溢れる脚本家というよりはくたびれた中年サラリーマンという印象が強くて、美しいミューズに振り回されてオタオタする様がなかなかにはまっています。また、彼の奥さんをアンディ・マクダウェルがかわいく演じていまして、彼女も二人の子持ちの主婦が似合う年になったんだなあってしみじみとしてしまいました。また、ミューズを演じたシャロン・ストーンは相変わらず魅力的です。得体の知れない年齢不詳、でもセクシー美人というキャラクターがピッタリでして、「マイ・フレンド・フォーエバー」「グロリア」とシリアス路線に傾きつつあった彼女ですが、コメディもいけるということを証明してくれました。マクダウェルのいかにもリアルな主婦ぶりと、ストーンの胡散臭くもセクシー美形ぶりがうまいコントラストになっています。

この女神さまは、スランプの脚本家の代わりに脚本を書いてくれるわけではありません。ただ、インスピレーションを与えてくれるだけで、それがいつ来るのかはわからないというもの。まあ、女神さまがいようがいまいが、インスピレーションなんてそんなものなんでしょうが、彼女の与えるそれに従うと必ずいいものができるのですって。そして、ジェームズ・キャメロン、マーティン・スコセッシ、ロブ・ライナーといった監督本人が登場して、彼女に相談を請うのです。そっかー、「タイタニック」や「レイジング・ブル」の源泉は女神さまだったんだー。何千何万という才能の渦巻くハリウッドで成功するってのは、確かに神様のバックアップでもなければ無理だと思いますもの。それを運で片付けるのはつまらない、こういう女神様とお知り合いになることが大事なのだと思う方がなんとなく納得できてしまいます。

でも、女神さま=幸運 をずっとキープしておくのは大変なようで、おかげで、主人公は夜中にホテルまでサラダを届けたり、自分の仕事場や寝室まで提供するハメになります。もういい加減イヤになってくるのですが、ここが肝心で、女神さまのご機嫌を損ねたり怒らせたりすると、とんでもなく悪いことが起こるのだそうです。幸運のアイテムを失った途端にツキに見放され、一気にどん底まで急降下というのは結構ありそうなパターンです。この映画では、主人公に女神さまのご利益があったかどうかをはっきりさせずに、曖昧な、かつ人を食ったオチを用意しています。そこは実物をご確認頂きたいのですが、少なくとも、女神さまに逆らってはいけないですねという結末は、ハリウッドとはやはり何か巨大な力に支配された魔界なのだ、という話ではなく、落語のオチみたいに楽しむのが正解なのでしょう。また、エルトン・ジョンがスコアも含めた音楽を担当していまして、これが正統派コメディ音楽になっているのが印象的でした。


お薦め度×ハリウッド内幕モノ、ファンタジー落語風。
採点★★★☆
(7/10)
こういうライトなコメディを映画館で観るってのはいい気分。

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