written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ロスのマルホランド・ドライブで交通事故が発生。その場から女が一人立ち去りました。そして、女優の卵ベティ(ナオミ・ワッツ)の部屋に逃げ込みます。ベティに見つかった彼女はリタ(ローラ・エレナ・ハリング)と名乗りますが、実は記憶喪失だったのです。その裏では、彼女を探しているらしい男たちがうごめき、ある映画の製作が進んでいます。一体、リタは何者なのか、そして、それが今製作中の映画にどうかかわっているのか、そして物語は夢と現実の狭間へと落ち込んでいくのです。
デビッド・リンチの映画というと、「ツイン・ピークス」「エレファント・マン」「ストレイト・ストーリー」くらいしか観てないのですが、今回は「ツイン・ピークス」の路線のようで、ハリウッドの裏の世界を悪夢の形で垣間見せたという印象の映画でした。そして、訳のわからないということでは、「ツイン・ピークス」の最初にビデオで出たパイロット版のようでした。まあ、後でプログラムを読んだら、この映画もテレビシリーズのパイロット版をベースに作られた映画だったそうで、思わせぶりに登場して、そのまんまになってるキャラクターが何人もいます。
そういう意味でも、この映画は1本の映画として成立してるのかという疑問が出てきます。一方で、この映画は、カンヌ映画祭で監督賞をとり、全米映画批評家協会の作品賞をとり、他にもいくつもの賞をとり、ノミネートをされています。それなりどころか、かなり高い評価を得ている映画なのです。でも、映画をサラリと観ただけでは正直言って訳がわからないというのが正直な感想です。私も貧しい想像力を総動員して、自分なりにこの映画を見終えたのですが、プログラムを読むと、私の解釈はどうやら違っていたようです。確かに冒頭に伏線はあるんですが、それが伏線だとはわからないくらいに、観客をミスリードするエピソードが多いのです。観てるこっちが映画を楽しんでいるというよりは、映画に遊ばれているような感じなんです。観る方が最初からそのつもりで観れば、観客と映画の双方が遊び感覚が一致して結構楽しめるのかもしれませんが、予備知識なく、この映画の前の放り出されると、かなり戸惑うのは事実です。プログラムによると何回も観るとわかってくる映画らしいのですが、今やシネコンや入替制の劇場では金がかかって仕方がないです。1回では楽しめない映画、何回か観ないとわからないよう映画は劇場にかけずに最初からそう断ってビデオやDVDで出して欲しいと思うのは私だけでしょうか。私は観始めて「あ、これはツインピークスだ」と思って、ある程度の心構えを持って観ることができましたけど、シネコンの入り口でなんとなく選んで入った人は「しまった」と思ったのではないかしら。
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この先はストーリーの核に触れる部分もありますので、未見の方はパスして下さい。
この映画の前半は、記憶喪失の女性リタを中心に、彼女の正体は誰なのかという物語が展開していきます。リタの記憶にあるダイアンという女性を探しに行くと死体になっており、その後、奇怪がクラブでゲットした青い箱を開けると、物語がガラリと変わってリタとベティが別の人間として、別のドラマを演じ始めるのです。ここで、私はベティという女優の卵が、リタも含めたハリウッドという名の悪夢に取りこまれたのだと解釈していました。そして、ベティが、ダイアンという別の女性を演じるハメになるのですが、その彼女は、新しいベティがハリウッドにやってくるのを待っているという図式をイメージしたのです。
ところがどっこいプログラムを読みなおすと、映画の前半はダイアンという女性の夢で、夢の中でダイアンはベティという女性を演じていたというのです。オープニングのジルバを踊るベティの姿とその後のシーツにくるまれた誰かというイメージカットは、伏線となっていると言えば言えないこともないのですが、物語の展開で、即オープニングのシーンを思い出すってのもかなりしんどいという気がしました。何しろ、その他にも伏線と思しきエピソードが山盛りですからね、どことどこを結びつけるのかってのを、期待とおりにできるかというと、かなり難しいと思います。そこで、もう1回観ろとか言うのは、商売的にはありなんでしょうけど、娯楽映画のあるべき姿とは思えないのです。
とはいえ、全体の雰囲気描写には面白いものがありますし、ゆっくりしたテンポでありながら、時間の長さを感じさせない演出は評価できると思います。ハリウッドという場所がまるで物の怪の住む場所のように描いていて、そのお化け屋敷的な感覚は面白いと思いました。でも、そう考えると古くは「サンセット大通り」、新しくて下賎なところで「ショーガール」といった映画を思い出す、割と古風な切り口を持った映画なのかもしれません。夢というキーワードで、この映画を観直した時、悪夢の現実化という恐怖を味わったのは、ベティなのか、ダイアンなのかというところがカギのように思いました。私は、ベティが被害者だと思ったのですが、プログラムによると、ダイアンなんだそうです。それとも、どっちとも取れるような作りをしてますから、どうでもいいことなのかもしれないです。(ちょっと投げやり。)
役者では、ヒロインを演じたナオミ・ワッツがかわいいのとエロチックと二つの顔をどちらも魅力的に見せたのが印象的でした。得体に知れないストーリーでも彼女を観ていて、最後まで付き合えるというのもあるのかも。また、タイトル時に一枚看板で名前の出たダン・ヘダヤ、ロバート・フォスターなどが1シーンのみで、セリフもほとんどなければ、ドラマの中でも影が薄いのが気の毒でした。丁度「ローラ・パーマー最後の七日間」のデビッド・ボウイみたいな意味不明な登場でした。これも、観客をミスリードしてると言えましょう。ずっと、ドヨーンビヨーンという音響効果が響いていて、その中に人声のノイズが入ってたりします。その雰囲気を味わうには音響効果のいい劇場でご覧になることをオススメします。
お薦め度 | ×△○◎ | こういう映画の楽しみ方って難しい。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 見る方の遊び心にかかってる映画って、ある意味手抜きだよね。 |
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