ムーラン・ルージュ
Moulin Rouge


2000年11月23日 神奈川 平塚シネプレックスシネマ8 にて
パリのムーランルージュで繰り広げられる踊り子と作家の恋の行方。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


1900年のパリ、ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の花形サティーン(ニコール・キッドマン)は公爵の目に止まり女優への道が開けそうな予感。そんなときに偶然から貧乏作家クリスティン(ユワン・マクレガー)と知り合い、初めて本当の恋に落ちてしまいます。サティーンのためのショーの台本を書くことになったクリスティンですが、その初日には、サティーンと公爵は結ばれる手はずになっていたのです。所詮は身分違いのかなわぬ恋だったのですが、クリスティンとサティーンは果たしてこの恋の結末をどうつけるのでしょうか。

「ロミオとジュリエット」を現代の紙芝居に仕立てたバズ・ラーマン監督が、今度は、1900年のパリを舞台に、踊り子と貧乏作家の恋の顛末をミュージカル仕立てで描きました。しかし、そこで使われる歌というのが、現代のスタンダードともいうべきロックやらR&B、ポップスなどの楽曲をあちこちに散りばめるという手法を取り、耳に馴染んだ曲が新しくドラマの中で再生するという仕掛けが施されているのです。「サウンド・オブ・ミュージック」に始まって「ユア・ソング」「ロクサーヌ」「ライク・ア・ヴァージン」まで登場するのですが、それらがパロディでなく画面をサポートする楽曲になっているのは見事でした。オリジナルとは全く別の編曲になっているものもあるのですが、向こうのヒットチャートに疎い私でも「おや、この曲は?」とわかるようになっているのですから、ご存知の方は、より感心されるのではないかしら。

この映画を観ていてまず思い出したのは、1980年代に流行ったMTVのビデオクリップの数々です。マイケル・ジャクソンの「スリラー」といった大ヒットに象徴されるMTVのブームは、様々な映像表現を生み、そのクリエイターの一部は映画の方にも流れてきています。基本としては、歌のプロモーション用のビデオで最初は歌っている歌手をエンエンと映したものだったのが、歌手を脇に追いやって別のドラマをメインに据えたり、全く別のイメージの映像をつないでみたり、レトロな素材を短いカット割でつないで、そこに現代のビートを乗せていくという手法はかつてよく観た記憶があります。また、視覚効果にお金をかけて、大変手間のかかる絵を作った作品も結構見かけました。ムーランルージュを描写した部分はまさにそんな感じでして、極彩色の絵を短いカット割でつなぎながら、そこにビートのリズムをかぶせていくあたりは、その昔のデュランデュランとかファルコ(ご記憶にありますかしら)のプロモーションビデオを思い起こさせるものがありました。

全体がミュージカル仕立てで、踊りの部分もかなりあるのですが、MTVの細かいカット割がしてあるので、芸を楽しむ作りにはなっていません。ミュージカル映画ということであれば邪道という作りとも言えますが、その目まぐるしいカット割がこの映画のカラーになっています。また、最新のSFXを贅沢に使って、パリの街並みのロングショットから窓へ寄って中の人物の演技までを1カットで見せたり、アブサン(強いお酒)に酔った主人公が妖精の幻覚を見たりと、凝った絵作りも楽しめる映画になってますが、これも80年代のMTVを思い出させるものがあります。とはいえ、今の若い人にはかなり新鮮に映るかもしれません。

悲恋もののストーリーは、偶然の出会いから恋に発展、敵役の登場、そしてさらなる障害の発生という、定番の展開なんですが、これを要所要所に歌を交えることで新鮮な感じがして盛り上がるのですよ。愛の告白を歌でするなんて現実の世界でやったら大笑いなのに、1900年のパリという舞台に特殊な世界観が、それを許してしまって、さらに一種の感動まで運んで来るのです。ユワン・マクレガーの善意キャラに、ニコール・キッドマンの絵に描いたような美形が、このストレートなラブストーリーを盛り上げていきます。クライマックスはヒロインが主役を演じるショーのシーンで、果たして二人は結ばれるのかしら、ハラハラという展開になります。メインのストーリーは定番を外したものではないのですが、それでも、歌と映像が華やかなので、かなり盛り上がります。でも、愛が永遠になるには、この結末しかないのかなあ。「そして王子様とお姫様は、ずっと仲良く暮らしましたとさ」という決着にしたら、「愛は永遠」とは呼べなくなってしまうのかしら。

数多くのナンバーが流れるのですが、その中では、ショーの前日にムーラン・ルージュのオーナーの歌う「ショー・マスト・ゴー・オン」、そして、タンゴの群舞が見物の「ロクサーヌ」が印象的でした。


お薦め度×ミュージカルの仕掛けの部分は成功してます。
採点★★★☆
(7/10)
1980年代のMTVを思い出す画面作りがちょっと懐かし気分。

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