モナリザ・スマイル
mona lisa smile


2004年08月21日 東京 日比谷みゆき座 にて
50年代ってアメリカでも良妻賢母が勝ち組だったんですね。


written by ジャックナイフ
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1950年代のアメリカは名門ウェルズリー大学に新任の美術史講師キャサリン(ジュリア・ロバーツ)が赴任してきます。彼女は大学が女性の社会進出のためでなく、良妻賢母を作り出すための花嫁学校であることに驚きます。よき妻になることがステータスであり、結婚が生徒たちのゴールとして与えられていたのでした。そんな中で、キャサリンの自由な視点の教育方針は当然大学内でも浮いてしまい、時として非難中傷されることもありました。その上、遠距離恋愛の恋人ともうまくいかなくなってしまい、そんな彼女を慰める同僚教師といい仲になってしまうのですが、この同僚教師は生徒にも手をだすプレイボーイ。そんなこんなの1年が過ぎて、キャサリンはさらにこの学校で教鞭を取ることができるのでしょうか。

ジュリア・ロバーツという人は作品を選ぶセンスがあると思ってまして、出る映画の各々で色々な顔を見せて、観客に新しいジュリアを見せ続けることに成功してきています。実年齢と演じるキャラもうまくシンクロさせていまして、今回は、当時でいうオールドミスの美術教師という役どころがうまく彼女にはまっていました。また、生徒役に、キルスティン・ダンスト、ジュリア・スタイルズ、マギー・ギレンホールといった、ルックスよりも演技力で売ってきた女優を集めて、全体を落ち着きのある雰囲気にまとめたのは、監督のマイク・ニューエルの手腕なのでしょう。

1950年代というと、私の生まれる前ですが、その頃の大学、というよりはその当時の勝ち組は、幸福な結婚をすること、そして、うまく夫を引き立てて、コントロールしながら、夫の出世を助けるのが妻の務めだったようです。夫には絶対服従とまではいかないですし、姑との確執に悩まされないあたりは、日本の嫁とは違うようなのですが、中盤、新婚の妻が夫とうまくいかずに実家に泊めておらおうとすると、母親に「お前の家はここではない」と追い返されるシーンがありまして、「女三界に家なし」というのはアメリカにもあるんだねーって妙に感心してしまいました。ともあれ、そんな文化の中で、30過ぎまで独り者のキャサリンはその時点で負け組に入ってしまいます。それもあるのか、生徒には最初の授業でなめられちゃうし、生徒に進学を勧めるだけで、反動だと言われちゃったりするのです。ルームメイトだった保健医は、生徒に避妊用具を渡したことを理由に解雇されてしまいます。そんな、校風に怒りすら憶えるキャサリンなのですが、そこは一筋縄ではいかない彼女自身の問題もあったのです。

遠距離恋愛中の彼氏が指輪を彼女の指にはめるのを拒否してしまい、破局してしまった後は、プレイボーイのイタリア語教師とねんごろになっちゃいます。彼女は自分の思うところに従って行動してはいるのですが、傍目には確かに尻軽女に見えなくもありません。それに、愛する男性の妻になることに漠然とした不安や不満を持っていたことも事実で、生徒の一人が進学をあきらめても愛する男性と一緒になりたいと言われて、結構ショックを受けちゃったりもするのです。どちらを選択しても、誰も文句をつけられるものじゃない。大事なのは、選択の自由なのだということが見えてきます。選択の自由があるからこそ、自分の選択に責任を持たなきゃいけない、これは結構いいところを突いてると思いましたけど、映画はそこを深追いせずにヒロインが新たな旅立ちをするという、やや強引なハッピーエンドを持ってきます。実際に現代は選択の自由がある時代な筈なんですが、その選択が一体何をもたらしたのかまで突っ込んでくれたら、大変面白い映画になったと思うのですが、単に、「こういう時代もありましてねえ」的なお話になってしまったのは残念でした。

とはいえ、マイク・ニューエルの演出は、省略をうまく使ってテンポよくドラマを展開させ、その一方で登場人物の心の動きを丁寧に追っていまして、単なる善悪の対立の図式にはしていません。キャサリンだって、理想に燃える教育者というよりは、生身の女性の方を前面に出して描かれます。演技陣では、憎まれ役を演じたキルスティン・ダンストが儲け役なんですが、この人は「チアーズ」のかわいいキャラも捨てがたいので、あまりこういう役ばかりやって欲しくない気がしました。また、脇でいつも大変印象的な演技をするマーシャ・ゲイ・ハーデンがこの映画でもヒロインと対を成す重要なキャラクターを演じて見事でした。コミカルなものからシリアスなものまで何でもこなす女優さんですが、どんな役を演じても一抹のペーソスを感じさせる演技で、この映画でも勝ち組にも負け組にもなれない女性を演じています。

プログラムを読むと、1950年代のアメリカ女性は家庭を守ることが最大の課題であり、主婦であることになじめない女性はストレスからタバコや薬に走りがちだったとあります。だとすれば、現代だってストレスの種は山のようにあるわけでして、今が特別にストレスの時代でもなく、どんな時代だって、社会の規範、あるべき姿がある以上、その規範とのギャップはストレスを生み、その結果、男も女も酒やタバコや薬に走ることになるのです。個人の意識が高いアメリカでさえそうなのですから、いわんや日本なんか、ストレスの塊になりそうです。そう考えると最近の自己チューとか刹那的な快楽志向なんてのは、ストレスは少なくなりそうです。でも、それっていい社会とは言い難いのは明らかでして、じゃあ、女性はみんな良妻賢母を目指すのがいいのかというと、それもありかなって気がしてきます。そんなこと言うと怒られそうですが、でも、どんな選択にも一長一短がありますから、両極端に走らずに落し所を見つけるのが人間の知恵なのでしょう。


お薦め度×要はどっちにしても自分で選択することが大事。
採点★★★☆
(7/10)
相当面白い問題提示ができたのに、ラストのツメの甘さが惜しい。

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