written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
西暦2020年有人火星飛行はまず第一陣は着陸に成功しました。しかし、不思議な山を発見した後、彼らは消息を絶ちます。山が突然生き物のように動き出し彼らに襲いかかったのです。生存者がいるかもしれないということで、宇宙ステーションから、ジム(ゲイリー・シニーズ)、ウッディ(ティム・ロビンス)が救出ミッションに出発するのですが、彼らの宇宙船は流星群で破損し、火星を目前にして航行不能寸前、ほんとにこれ救出ミッションなのかしら。
ブライアン・デ・パルマ監督といえば、ヒッチコックファンということで、そのタッチを継承したサスペンス演出を得意とする人ですが、その一方で、「アンタッチャブル」「カジュアリティーズ」「ミッション・インポシッブル」といったスリラーじゃない娯楽編も作ってきました。今回はSF映画にトライしたのですが、見様によっては、20世紀のSF映画の総決算をしようとした節もありますし、単にパロディを狙ったという節もあります。何しろ、この映画、「2001年宇宙の旅」のようで「未知との遭遇」も「アビス」も入っていて、「コンタクト」のようでもあるという、何と言うか、視点のオリジナリティがあまり感じられないのでした。
この映画は、遭難した火星着陸チームを助けに行った、救出ミッションのチームが不思議な事件に遭遇するというものです。一体、火星に何があったのかというところは劇場でご確認頂きたいのですが、その正体はものすごい発見のようで、何か安直なんですよ。ちょっとネタばれ覚悟で言ってしまうと、地球上の生命の起源についての一解釈と呼べるものなんですが、それにしては単なる思いつきのようにしか見えないのです。これは、基本設定をドラマ化するにあたっての脚本に問題があったのではないかしら。何しろ、火星で見聞きしたことを、主人公のジムが勝手に自分の都合のよいように解釈して、それが全て事実らしいということで映画を終わらせるのでは、主人公の妄想で成り立つ映画のように見えてしまいます。もとから、そういう宇宙の白昼夢的スリラーの線を狙っていたのなら、まだしも、ドラマ展開はまことにストレートでして、観客が色々な解釈ができるような遊びの部分は一切ありません。「2001年宇宙の旅」は映画だけ観てもちんぷんかんぷんなところが多かったのですが、そこに観客のイマジネーションの働く余地がありました。今回の映画は、ある意味で説明過多だとは言えます。
物語としても、脚本がうまくないのか、冒頭から、主人公の設定を登場人物に語らせるところも、不自然な会話がものすごくわざとらしかったです。状況説明をするのに、こんなにモタつくのも珍しいと思いましたが、才人デ・パルマをしても、この物語はさばききれなかったのでしょうか。一方、宇宙船内の描写は本筋とあまり関係ないのにやけに長い。「2001年宇宙の旅」と同じ描写をしたかったからかもしれないですが、それを元ネタの30年後にやることもないだろうにというのが率直な感想です。
地球になぜ生命が生まれたのか、なぜ宇宙に生命が生まれたのか、これは、宇宙の歴史の中でも神秘と謎の一つなのですが、この映画はその中で、最も安直な回答を見せてくれるのです。「2001年宇宙の旅」はなぜ人間が知恵を持ち、他の動物と一線を画すに至ったかというお話の見せ方から、生命の根源を哲学的に垣間見せるという構成が見事でしたが、この映画はそのもっと大元を見せようとしたのです。しかし、結局その回答は、始発駅が他の路線の終着駅だったという、ほとんどサギに近いものだったのです。
それでも、視覚効果に、ILMとドリーム・クエストという2大SFXスタジオが参加しているだけに、宇宙船や火星表面の描写、そして、襲い来る謎のエネルギーなど見せ場には事欠きません。また、こういう映画には不似合いだろうと思っていたエンニオ・モリコーネの音楽が意外にマッチしていました。SFというには、ノスタルジックな趣の映画に彼の叙情的な音がうまくはまりました。
お薦め度 | ×△○◎ | SF映画を初めて観る人には○かも。 |
採点 | ★★★ (6/10) | テレビの2時間ドラマみたい展開が安い。 |
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