written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
チャーリー(ジム・キャリー)はマジメなんだけど、どこか小心者のおまわりさん、奥さんとの間に黒人の子供が生まれても何も言い出せないし、その奥さんが黒人男性と出ていっても文句の一つも言えません。ご近所からはバカにされっぱなしの彼なんですが、その結果、抑圧されたチャーリーとは別に、やりたい放題をするハンクなる人格が現れて一騒動起こってしまいます。署長は被疑者アイリーン(レニー・ゼルヴィガー)をニューヨークまで護送し、ついでに休暇をとるようにすすめてくれたのですが、このアイリーンが命を狙われ始めたため、事は厄介になってきます。その上、チャーリーがちょくちょくハンクになっちゃうものだから事態はますますややこしくなっていくのでした。
ボビーとピーターのファレリー兄弟が脚本(共同)監督したコメディです。この人たちの映画というと私は「メリーに首ったけ」しか知らないのですが、アクの強い、そして下品なネタを盛り込んで、個性的な映画を作る人のようです。同じようなバカ映画の「裸の銃を持つ男」シリーズなどに比べると扱うネタがはるかにアブないものが多くて、この映画でものっけから人種差別ネタで始まって、その後も、障害者差別、児童虐待(これは個人的には爽快でしたけど)、動物虐待といった普通のコメディでは絶対にやらないネタのオンパレード。じゃあ社会派ブラックコメディかというとさにあらず、その他にも、ウンコ、チンポの中学生レベルのネタに、セックスネタも含めた、シモネタのオンパレード。いわゆる下品なのですね、その下品さを逆手にとって、芸術作品にしようという意図もまるでなく、ただひたすら笑いをとるという映画になっているのです。
中学生レベルのそんな映画のどこが面白いのかというと、これが面白いのです。「くだらねー」と思いながらもついつい笑ってしまいます。いい大人が、志村けんを観て笑ってしまうのと似たところがありますね。また差別ネタというのは、普段はあまり言葉や映像にできない、タブーな領域だけに、その分、こうやって映画化されるとミョーにうれしいようなおかしさがあります。「おー、やった、やった」という感じでしょうか。会社の上司に「うるせーんだよ、このハゲ」と言い返す爽快さと似たところあります。成人式なんかでやりたい放題してる、今時の若者にはこの爽快感はわからないでしょうね、きっと。社会がまともに機能しているほど、こういう爽快感を味わえるのかもしれません。
そうなると、この映画の基本設定の二重人格も、なかなか面白いところを突いたネタだと申せましょう。警官という職業の主人公が、町の人に徹底的にバカにされているというのは、今の日本でもなんとなくありそうな感じ。バカにされて我慢に我慢を重ねているおかげで社会は日々まともに動いていると言えそうです。多分、マジメな教師とか律儀な医師なんてのも、同じようなことが言えるのではないかしら。その我慢が臨界状態に達して、主人公のチャーリーはハンクという、もう一人のやりたい放題の人格を作ってしまうのですが、このあたり、極端な展開でありながら、共感できる人は結構いるのではないでしょうか。かくいう私も、こんな風に言いたいこと、したい事を思う存分できたらいいなと思いますもの。でも、ハンクの時の記憶は、チャーリーに戻った時はなくなっているのですから、その分、いい人チャーリーにはストレスかかっちゃうのかな。
でも、そういう二重人格は日本だと割と簡単にお目にかかれます。いわゆる記憶をなくした酔っ払いってやつですね。私は下戸なせいか、「あの時は、酔ってて憶えてない」なんて言われると、じゃあ酔っ払いは人間扱いしなくていいんだと思ってしまうほうなんですが、この映画のハンクには、酔っ払いと同様、責任能力はないらしいんです。そういう意味では腹立たしいことこの上ないハンクなのですが、酔っ払いに厳しいアメリカの映画ですから、作者にはそういうつもりはなさそうです。でも、やっぱり迷惑な奴だよなあ。
映画のメインストーリーはいわゆる冤罪追跡サスペンスという、まき込まれ型のサスペンスの典型になっています。周囲が悪者だらけで孤立するヒーローとヒロインという設定ですね。でも、全体がなんだかノンキに展開するので、結局、アブないオ下劣ネタの方が印象に残ってしまいます。ジム・キャリーはもともと「神経質な二枚目」という見た目をしてますので、ピッタリのキャスティングになっていました。さらに、一人でチャーリーとハンクを格闘させる芸で、きっちり笑わせて、存在感を見せてくれます。その他の出演者はキャラクターが際立つところまではいかず、むしろファレリー兄弟の仕掛けた笑いのピースになっているのが面白いところです。個人的にファンであるレニー・ゼルヴィガーも今回は彼女らしい個性を出しきれずに終わってしまったところがあり、イカレた話の中で無難にヒロインを演じきったという印象がなのがちょっと残念でした。一応ラストは、ラブストーリーらしい結末にはなるのですが、それも真に受けていいものかどうか迷ってしまうものがありました。でも、こういう映画はなかなかお目にかかれませんから、一見の価値はありと言えましょう。ただ、一人でこっそり観るか、気心の知れた友人とご覧になることをオススメします。
お薦め度 | ×△○◎ | うかつにデートコースに使うのはちょっと。 |
採点 | ★★★ (6/10) | 映画の濃さにレニー・ゼルヴィガーが霞んだのが残念。 |
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