マトリックス・レボリューションズ
Matrix Revolutions


2003年11月15日 神奈川 川崎チネチッタシネ12 にて
いよいよ人間とマシンの間で全面戦争が。で、ネオは?


written by ジャックナイフ
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マシンが送り込んできたセンチネルはついにザイオンのドックを襲撃してきました。人間側も迎え撃つのですが、絶対的な数の違いはどうにもならず、人類の存続は奇跡を待つしかない状況。ネオ(キアヌ・リーブス)はマトリックスと実世界の狭間に取り残されていたのを、トリニティ(ケリー・アン・モス)らによって助けられ、ネオとトリニティは二人でマシン世界の中心へと向かいます。一方、壊滅寸前のザイオンへ戻ったモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)たちは最後の決戦を挑みます。一方、増幅するエージェントスミス(ヒューゴ・ビューイング)は、人間世界もマシン世界も我が物とし破壊しようとしていたのです。

ハイテクスリラーから始まった「マトリックス」ですが、その後、スペース・オペラのような展開を見せました。前作の「リローデッド」は妙に理屈っぽいのが、今イチだったのですが、完結編であるこの「レボリューションズ」では、全編戦闘シーンで2時間余を突っ走るという構成で、娯楽映画としてのポイントを稼ぎました。映画のほとんどがザイオンの攻防戦であり、主人公であるはずのネオの影が薄いのですよ。さすがにクライマックスはネオとスミスの一騎打ちになるのですが、それよりもザイオンの攻防戦の戦争映画としての印象が大きくなってしまったのは、脚本、監督の誤算だったのかもしれません。でも、このザイオンの攻防戦が迫力満点で、相当盛り上がるのですよ。最初から、勝ち目のない戦いに臨む連中が結構泣かせますし、映像的にも、無数のセンチネルの描写など、これまで見たこともないイメージとして圧巻でした。

その戦闘シーンと、そこで描かれる必死な人間たちのドラマが、メインのネオの物語とシンクロしてこないのは、ドラマとして痛いところです。前半で、集団ドラマとしての人間たちの痛みや葛藤を、リアルに描けば描くほど、その後のネオとスミスの物語が絵空事じみてしまいました。それは、確信犯的なドラマ構成というよりは、広げた風呂敷の引っ込め方に困ってしまったというふうに見えてしまいました。ネオとスミスは表裏一体だとか、言葉だけで言われても、まるでピンと来ないですし、ラストの決闘もザイオンの戦闘シーンの迫力に負けてしまうので、この決着のつけ方はどう読めばいいのかと思ってしまいました。結局、ネオは救世主なんかではなく、最初に登場した通りのハッカーだったのかなとも思えてしまう結末は本編でご確認頂きたいと思います。

この映画に、登場する人間のような見た目だけど、人間じゃない皆様はプログラムなのだそうです。つまり、プログラムのくせに人間のように会話し、思考し、そして感情さえも持っているようなのです。これって、擬人化されたロボットと大差ないわけでして、SFとしての発想は大変古風なものだと言うことができます。いつもSF映画を観て気になるのが、人間よりも知識や思考能力に優れたコンピュータプログラムが、どうして人間のマネをしたがるのかということです。別に人間のマネなんかする必要はないんですよ。実際にセンチネルといった兵器は全然人間とは異なる形状をしていますしね。このあたりに、この映画の作り手の発想の限界を感じてしまうと言ったら、言いすぎかしら。ピノキオは元が人間に模して作られた人形ですから、人間になりたがるのはわかるのですが、なぜコンピュータやプログラムが人間指向に走るのかがどうにも理解できないところです。そもそも「マトリックス」は仮想現実の中に人間たぢが生かされていたという設定なのですから、人間の方が下位に位置づけられているわけでして、なのにコンピュータ側は人間のコスプレをして見せるというのは、やっぱり人間が最上位に位置づけられる存在だという呪縛から抜けきれていないということになります。

とはいえ、だからこそ、人間とプログラムの戦いをカンフーアクションや銃撃戦で描写できるということになるのですが、発想的にはかなりご都合主義で、B級映画の胡散臭さがぷんぷんしています。第一作の「マトリックス」はその胡散臭さが妙に面白くて、マトリックスのアイデアで、SFアクション活劇を作ろうとした取り合わせの妙が娯楽映画としてのポイントを相当アップさせていました。ところが、これを三部作に広げようとしたところで、そのB級っぽい、いい加減な部分を後から埋めなきゃならなくなり、その部分を理論武装しようとして失敗したというふうに見えます。理屈抜きのザイオンの攻防戦を迫力ある見せ場にするパワーはある一方で、エンディングで「だから?」という気分にさせるのは、どこか、話の膨らませる方向を誤ったように思えてしまいました。

今回、主演3人の影が薄く、脇の戦う黒人ヒロイン、ジェイダ・ピンケット・スミスとノーナ・ゲイが設け役ながら、かっこよくって印象的でした。また、ストーリー的には弱いドラマ部分を勢いで盛り上げていた、ドン・デイビスの音楽がすばらしかったです。「へぇー」というラストの後、エンドクレジットに流れる曲が、Juno Reactorとのコラボレーションによるもので、ムチャクチャかっこいいですから、ここはお聴き逃しなく


お薦め度×今度は戦争だ、と活劇に徹したのが功を奏して見応え十分。
採点★★★☆
(7/10)
結局、決着のつけ方に困ったんだなあってのがよくわかるのが何とも。

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