written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
全欧征服をねらうナポレオンは制海権も押さえつつありました。英国のフリゲート艦サプライズ号はフランスの私掠船を追っていたのですが、霧の中から不意打ちを受けて一度は敗走します。一度本国へ引き返すべきだという意見をおさえこんで艦長のジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ)はこのまま敵艦を追う命令を下します。敵艦はサプライズ号とは比較にならない速さと重装備で、つけこむ隙は艦尾の部分しかありません。果たして、サプライズ号とその乗組員たちの運命やいかに。
この映画の予告編は、少年兵のモノローグに始まるもので、少年がなぜ戦わねばならないのかという戦争の悲惨さ、そして、艦長のもとで成長する少年を描いた作品のような見せ方をしていました。私もてっきりそういう映画だとばかり思っていたのですが、この予告編を観た、原作のファンからクレームがついたというのを聞いて、ちょっと見る目が変わりました。原作は有名な海洋小説だそうで、その10巻目を映像化したのだとか。そうなると、冒険活劇ものなのかなという期待も持ってスクリーンに臨みました。
オープニングから船の上で、かつすぐに戦闘シーンなのでちょっとびっくりだったのですが、なるほど、連続物語の1エピソードなんだなということで納得。主人公のオーブリーが伝説の艦長であり、乗組員たちが彼に全幅の信頼を置いていることもあらかじめのお約束のようで、改めて説明はされません。ストーリーの展開はキビキビと海の上での戦闘、敗走、船内の葛藤といったエピソードをつないでいきます。確かに少年の乗組員も多いのですが、それは当時としては特筆すべきものではなかったようで、至極当たり前のこととして描かれます。また、士官とその下、さらにその下という階級制度も明確にありまして、そこもドラマは言及することはしてません。監督がピーター・ウィアーということがあって、色々な問題意識を盛り込んだ映画になっているのかとも思ったのですが、結局、ストレートでヒロイックな冒険活劇に仕上がっていました。それもかなり面白い映画として。
ラッセル・クロウ扮するキャプテン・オーブリーは伝説を絵に描いたような人物で、彼のために命を惜しまぬ部下たちがいて、彼自身も自分に絶大な信頼を置いています。平たく言えば強運の自信家なんですが、その横に彼のストッパーとしての船医(ジャック・ベタニーがいい味を出しています)を配することで、鉄壁のフォーメーションが出来上がっているのです。今、こういう強いリーダーシップを正面から描いた映画が少ないだけに、この設定は結構新鮮に映りました。確かに前半負け戦状態で、オーブリーも若干の迷いを船医にだけは見せるのですが、そこにこだわった映画ではありません。失敗のプレッシャーに負けて死を選ぶ士官もあくまで物語の1エピソードとして語られます。もし、この映画に現代に通じるメッセージがあるとすれば、大きな事を成すには、それなりの縦割り組織と強いリーダーシップがないといけないということでしょうか。時には、リーダーがミスを犯すときもあっても、それで組織の屋台骨が揺るがないことが必要ではないかということです。特に、洋上の帆船という逃げ場のない環境での規律を持った行動のためには、秩序という名のもとの、階級制度もありということになるのでしょう。
海のシーンはCGやらミニチュアなどを駆使して、嵐のシーンなど、大変迫力のある見せ場になっています。CGによるものらしい海の描写も「パーフェクト・ストーム」の頃よりもずいぶんとリアルでして、こういう技術の進歩を実感できる映画でもあります。また、実際に初めてロケを行ったというガラパゴス島の景観も楽しい見せ場になっています。このシーンが、洋上の戦闘シーンばかりの映画の中にアクセントとなり、また、殺伐とした戦場とのコントラストも出ました。
クライマックスはフランス側の私掠船との一騎打ちとなり、そしてラストではまだ物語が完結していないことを暗示して次の展開を期待させるようになっています。それは、映画があわよくば続編狙いというのではなく、原作がシリーズだからなのでしょう。面白い映画なのですが、大変お金がかかっている大作であるように見えるのは、必要以上の期待を持たせることになって、映画にとっては不利になるかもしれないと思いました。戦場の悲惨さとか、少年兵の過酷な体験と言ったものを前面に出した映画ではなく、むしろそれらのエピソードを散りばめた冒険活劇なので、お気楽に楽しむべき映画なのではないかと思った次第です。
お薦め度 | ×△○◎ | 久々に見るヒーロー活劇は見応え十分。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 重量感あふれる海洋冒険活劇に、ガラパゴス島のおまけつき。 |
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