マグノリア
magnolia


2000年03月04日 東京 丸の内ルーブル にて
色んな人生、色んなドラマ、偶然って不思議??


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


30年間続いてきたクイズショウの司会者ジミー(フィリップ・ベイカー・ホール)は体の調子が思わしくなく、娘クローディア(メローラ・ウォルターズ)ともうまく行ってません。一方瀕死の老人アール(ジェイソン・ロバーズ)は看護人フィル(フィリップ・シーモア・ホフマン)に生き別れた息子フランク(トム・クルーズ)を探すように頼みます。フランクは現在、女をくどく方法の本とビデオで稼ぐタレントです。さて、まだいるな、昔はクイズの天才少年、今はただのアホのトニー(ウィリアム・H・メイシー)は、若いバーテンダーに想いを伝えたいのにできないダメ男。その他もろもろの皆様が織り成すある1日にどういう決着がつくのでしょうか。

トム・クルーズがオスカーの助演男優賞の候補になったとか、ラストがびっくりとか色々な噂が先行して、どういう映画なのか期待が高まりました。そして、あの予告編、物語の主要人物が自己紹介しながら、シリアスに盛りあがっていく予告編は近来稀に見る出来栄えでした。予告編で、これは色々な人間の織り成す人生模様を語る映画なのだということが伝わってきますもの。でも、3時間、長いな、それは、という危惧もあったのですが、実物を観た感想を一口で言うと、「予告編と同じじゃん」というところに落ち着いてしまいました。

オープニングでは、本編とは全然関係のない過去の事件について語られます。その不思議な符合は偶然と言いきることができるのだろうかという問いかけはこれから始まるドラマを期待させます。本筋に入ると多くの登場人物のドラマが並行して描かれていきます。クイズショーの司会者、その娘、出場者の少年、もと天才少年、瀕死の老人、その若い妻、老人の看護夫、堅物警官、女のもて方を説く怪しげな男、そういった面々のドラマ、それもかなりシリアスなドラマが展開していきます。脚本、監督のポール・トーマス・アンダーソンは、様々な登場人物へ場面が転換されていくという構成をとる一方で、各々のドラマをかなりじっくりと見せる演出をしているので、これじゃあ、3時間にもなるよなあって、妙に納得してしまいました。 それは、多くの登場人物を要領良くさばいたとは言い難く、オムニバス映画を横並びで走らせたという印象です。

これがラストで一本の糸にまとまるという仕掛けなら、「おー、すごい」ということにもなるのですが、実際そうならないのです。だったら、横並びでドラマを走らせる理由があまりないように思えたのは私だけでしょうか。過去への後悔、贖罪、未来への希望といったものはあるのですが、それがただ横並びに並んでいるだけです。それ以上のものを期待した私が悪いのか、期待させた宣伝がうまいのかはわかりませんが、オープニングで「偶然と見えざる運命の手」を感じさせるエピソードを列挙して見せたあたりからすると、この結末は「全て偶然なんだよーん」という監督のプラクティカルジョークのようにも思えてきます。期待させておいて、うまくはずしたという一発ギャグみたいな感じでしょうか。

映画の後半は相当シリアスでかつ湿っぽい話になってきます。人の生き死にが正面から語られ、あまり救いのないエピソードは見ていて辛いものがありました。現実はそんなものなのかもしれませんが、娯楽映画としては、3時間も付き合った挙句に身近な不幸に結実されるのは、私にはしんどかったです。それでも、クイズショーの司会者の結末とか、もと天才クイズ少年の末路といったものは、人生の機微を感じさせて面白いと思いました。ウィリアム・H・メイシーのダメ男ぶりは「ファーゴ」と双璧ですが、タイプキャストになってしまったとも言えそうです。また、トム・クルーズはおいしい役を好演していますが、彼の絡むエピソードは全体から見て長いという印象でした。

興味深いのはこの映画もさることながら、この映画を観た方々の感想でして、絶賛の方もいれば、何だかわけがわからないという意見もあり、私の知り合いは一言「長い」でした。そうして見ると、この映画を観てのれる人とのれない人がいるという映画なのでしょう。「タイタニック」なんてのは、観た人のほとんどが誉めるにしろ、けなすにしろ、その映画にのることができるのですが、これはとっつきどころをうまく見付けないと、味わうこともできないという映画なのかもしれません。私にとっては、見応えあるエピソードを横並びに流しただけの映画であり、わざわざ構成を複雑にする理由も、3時間にする必要もないという映画でした。それは、多分、この映画のとっつきどころを見失っているのかもしれません。何しろ、ラストのびっくりの仕掛けは、今もってどういう意味と意図があったのか理解できませんもの。

人は人生の各々のタイミングで、誰かの人生と関連しているのかもしれません。この映画でも、各々のエピソードは、細い糸でつながりを持っています。ただ、それを認識できるのは、観客だけで、当の本人にはその糸が見えないのです。それは、私たち自身の人生でも同じで、自分では知ることのできない糸で、他の誰かとつながっているのかもしれません。ただし、見えない糸はないのと同じで、自分に何の影響も及ぼすものではないと思うのでした。だから、私にとって、この映画は「全ては偶然なんだよーん」というところに落ち着いてしまうのです。


お薦め度×それぞれのエピソードは見応えあり。
採点★★★☆
(7/10)
うまいけど、でも3時間は長いよなあ。

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