ラヴァーズ
Lovers


2000年10月30日 神奈川 横浜オスカー2 にて
男と女の出会いと、そして終わりまでを淡々と。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


素っ気無いタイトルの後、本屋に一人の若者が入ってきます。そこにいる女性店員とあっという間に仲良くなって、デートの約束から、お付き合いが始まります。この恋人たち、ジャンヌ(エロディ・ブシェーズ)とドラガン(セルゲイ・トリフュノヴィチ)は、時には諍いもあるけれどでもやっぱりラブラブ状態、画家であるドラガンは夢を追うやんちゃな坊やみたいですけど、その分ジャンヌはちゃんと生活感覚のある女性です。それなりにいいカップルだったのですが、ドラガンのビザが切れていたのです。このままでは、即刻母国へ帰らなければいけないドラガン、果たしてこの二人、どうなっちゃうのかしら。

「グラン・ブルー」「奇跡の海」などで有名な俳優ジャン・マルク・バールが撮影も兼任して初監督した作品です。シンプルな構成で男女の生な息使いを見せてくれます。女が本屋の店員で、男が画家という設定で、女は生活感があって、男は経済観念がなくてというのは、フランスも日本も大差ないのかしら。男の方はいつまでも子供みたいで、女はそれなりに大人なんだけど、いざとなると男の甘えを拒めない、そんな男女の関係を丁寧に積み重ねていきます。

普通の劇伴音楽は一切入らず、手持ちカメラのみで撮影された二人の生活は、一つ間違えると退屈な垂れ流し映像になってしまうのですが、きちんとストーリーのある映像になっているのは、バールの演出によるものでしょう。恋人たちのラブラブな会話、ささいな諍い、そして仲直り、まあ好きにしてよと思うようなやりとりを退屈しないで眺めていられるのは、そこにきちんとしたストーリーと演出があるからなのでしょうね。

しかし、恋する二人の会話とかやりとりを傍目で見ているってのは、それがリアルであればあるほど、何だか気恥ずかしくなってきます。「はいはい、好きにして。」という気分なんですが、恋人たちはずいぶんと理不尽な事を言ってます。特に私が男だからそう思うのかもしれませんが、ジャンヌの魅力的なキャラクターに比べると、ドラガンの方はワガママで経済観念がなくて、どう見ても、ろくでなしのようにしか見えません。そんな男に、ジャンヌが本気で惚れているのを見るのは正直しんどくて、早くもっとマシな男に乗り換えればいいのにと思うのですが、愛しあう二人はそうはならないのです。うーむ、これが恋の魔法なのか、だとすると、どこにも取り柄のない私のような中年オヤジにも、とびきりの女性と相思相愛になる可能性があるということになるわけです。何か、希望が湧いてくるかも、という楽観的な解釈をしておきましょう。

ドラガンは、ビザが切れていて、母国へ帰らざるを得なくなります。それでも、何をどうする気もなくて、ジャンヌをやきもきさせるドラガンの態度にはイライラさせられるのですが、それでも愛し合う二人、これも愛の魔法なのね、きっと。それでも、ドラガンの態度には釈然としないです。うーん、ジャンヌかわいそー。そういうオヤジ的視点で眺めると、恋人たちはこっけいであり、そしてまた悲しくもあります。なぜ、悲しいのかというと、この二人にハッピーエンドの期待が見えないのに、現時点では愛し合っているというその事実が何だか悲しいのです。よく、「もう恋なんかしない」と言っている女性が、また他の男性と前回と同じパターンを繰り返してしまうというのも、その時点で愛し合っているという事実は確かであり、そしてその事実の魅力には抗い難いものがあるからではないでしょうか。

色々なことを考えさせてくれる面白い映画ではあるのですが、この映画、どうもビデオで撮影されているように見えるのです。横にパンすると画面がちらつきますし、全体のディティールも甘い画面は、16ミリフィルムからの35ミリへのブローアップにしても画質が悪いのです。「ひかりのまち」でも16ミリで撮影して、それをさらにシネスコサイズにしていましたが、それはそれでフィルムの効果を出していました。今回は単に手持ちキャメラと演出の都合でビデオ撮りしたものを大画面で見せられているという印象で、それなら劇場公開なんかしないでビデオで出せと思ってしまうのでした。


お薦め度×男と女のリアルな息遣いは感じられます。
採点★★★
(6/10)
これビデオじゃない?映画館で観るもんじゃないような。

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