ロッタちゃんはじめてのおつかい
LOTTA FLYTTER HEMIFRAN


2000年02月22日 東京 恵比寿ガーデンシネマ2 にて
これは究極のお子様映画、気分は数十年前。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


スエーデンのとある町、ロッタちゃん(グレテ・ハヴネショルド)は、パパとママ、そしておにいちゃんとおねえちゃんと暮らす、元気な女の子。朝起きて、ママが着なさいというセーターはチクチクして大嫌い、それでも着なさいと言われて、ロッタちゃんは一大決心、隣のベルイおばさんのところに家出することにしちゃいます。離れの物置の2階を掃除して、お引越ししたら結構よいお住まいで。パパやママがやってきて、「寂しくなるから、クリスマスまでには帰ってきてね。」ですって。さて、ロッタちゃんのお引越しの結末は?

「長くつ下のピッピ」のアストリッド・リンドグレーン原作によるベストセラーの映画化です。5歳の女の子の日常生活を描いたかわいらしいエピソードが3つこの映画には入っていまして、前述の「ロッタちゃんのお引越し」のエピソードはその一つ目のお話です。見た目は結構かわいらしいロッタちゃんなんですが、映画の半分くらいは、怒ったようなブスっとした顔をしています。子供なんて大人に比べて感情の起伏が激しいですからね。ちょっとしたことで本気で怒ったり、簡単にご機嫌が葉乗ったり。そんなロッタちゃんを見ていると自分の幼いころを思い出してしまいます。子供なんて単純なものです。待てよ、だとすると最近の「すくキレる」なんていうのは、結局、子供の感情の起伏が、大人になっても成長してないってことになるのかな。キレやすい人って、まだまだ子供じゃーん、なんてことに思い至ってしまいました。

子供らしさって、どういうものなのかなあって考えたとき、ロッタちゃんの行動パターンは結構参考になります。基本的に単純で短絡的で自己中心的。こう並べるといいところなんて一つもないじゃんてことになってしまいますが、それがいい方向に作用するときもあるし、そうでないこともあるというのがこの映画なのです。そんな人間としては、まだ素材でしかない子供に対する大人の態度がなかなかに興味深い映画なのです。2つめのエピソードで、ロッタちゃんは病気のベルイさんのお世話をしてあげます。それがすごく何かしてあげるという大層なことじゃなくてすごく自然。「私って何でもできるのよ」って言いながら、サンドイッチを作るロッタちゃんは、必ずしもベルイさんのためを思って行動しているわけではないのですが、それでもベルイさんはロッタちゃんに感謝するし、お駄賃もくれて、ロッタちゃんは自分のやったことが自慢できることだという確信を持つのです。

あーしなさい、こーしなさいというのではなくて、ロッタちゃんが自発的にやったことで、いいところを誉めてあげるというスタンスがすごく見ていて気持ちよく感じました。ロッタちゃんの行動に対してきちんとリアクションをとってあげることで、ロッタちゃんは、やっていい事と悪い事を学んでいくのです。きちんとリアクションをとるということが、即ち、彼女を一人の人間として扱うということになるのでしょう。ただし、そこには、きちんと大人と子供との区別という基本法則は必要だと思います。日本だと、無条件に甘やかしてしまうので、大人の目が、子供の行動に対する規制にならないことが多いと思います。そういうところで、ロッタちゃんのパパやママを真似たところで、子供はつけあがるだけではないかと思います。パパやママを大切にする気持ち、大人に対する敬意がベースにないと、ロッタちゃんのようにはいかないのではないかしら。

とはいえ、育児の副読本みたいな映画ではありません。子供が読んでちゃんと楽しめるお話になっているのです。クリスマスツリーが売り切れの時、感謝祭のお菓子をパパが買いそびれた時、おにいちゃんやおねえちゃんがガッカリメソメソ状態でも、ロッタちゃんは元気になんとかしちゃうのです。それも、ガッツや根性ではなくて、ささやかな偶然と善意が、事態をいい方に何とかしてくれるのです。そこには、夢と希望が感じられ、観ていて元気になる何かがあるのです。そして、私のような、日々の暮らしに鬱々としている大人は、かつて幼いころに、そういう元気のモトの持ち合わせがあったことを思い出すのでした。

幼稚園から小学生のころ、教室の後ろに小さな本棚があって、そこにこういう児童文学の類が置かれていて、学級文庫などと呼んでいました。今で言うなら「葉っぱのフレディ」のような本です。そういうのを読んでいた頃を思い出す映画でもありました。童話というには、読みでがあって、小説というには絵が多い、そういうお話を子供のころ色々と読んでいたんだなあって。この映画の持つ雰囲気、色使い、登場人物の行動が、絵本みたいなんです。ちっともリアルじゃなくて、でも身近に感じてしまう、まるで学級文庫の本を読んでいるような気分になる映画でした。

というわけで、わがままで自己中心的だった幼い頃の自分、そして、そういうお話を読んで楽しんでいた自分と、二重に自分を振り返ることができました。たまにこういう映画を観るのも、心の洗濯になるのではないかしら。


お薦め度×涙も感動もなくて、ロッタちゃんの膨れっ面はある。
採点★★★★
(8/10)
絵本を読むような味わいが好き。

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