ロストソウルズ
Lost Souls


2001年06月16日 東京 新宿武蔵野館 にて
宗教と狂気が紙一重という面白怖いサンプル。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


かつて、悪魔払いを受けたことのあるマヤ(ウィノナ・ライダー)は今はその助手をしています。彼女が立ち合った悪魔払いで、悪魔に憑かれた男が奇妙な数字を書き連ねているのに興味を持って、調べたところ、それはピーター(ベン・チャップマン)という男に悪魔がとりつく日が近づいていることを意味していたのです。ピーターに実際に会ってその話をするマヤですが、当然そんな話を信用してはもらえません。しかし、それから彼女の周囲で奇怪な現象が相次いで起こるようになります。果たして彼女は、ピーターを悪魔憑きから救うことができるのでしょうか。

「プライベート・ライアン」などで有名な撮影監督ヤヌス・カミンスキーの第1回監督作品です。いわゆる悪魔憑きを題材にしたオカルトスリラーで、正面から悪魔の存在を描いた映画です。神と悪魔の存在は常に対で、神が存在するのであれば悪魔も存在する、善が実体をもって存在するのであれば、悪も実体を持って存在するという考え方がこの映画の根幹にあります。キリスト教文化からすると当たり前なのかな? でも、この辺りから私みたいな不信心者は眉につばをつけてしまいます。もし、それらが人間の心の葛藤の反映であったなら? なんてことを考え出すと結構怖い話になってきます。カミンスキーの演出は極力直接描写を押さえて、悪魔の存在を明快に映像化することを避けている節があります。しかし、数カ所だけ、完全にこの世のものでないショットがSFXを使って描かれるのが、全体のバランスを壊しているように思えて残念でした。

この映画の中で、ピーターに悪魔が乗り移ろうとしていることを知った神父は銃で彼を殺そうとします。信心ゆえに殺人を犯そうとするのです。なるほど聖戦というのはうまいことを言うなあと感心してしまいました。神とか悪魔というのはあくまで概念の名前であって実体は何だかよくわかりません。人によっては宇宙人は神だと信じてますし、動物霊の憑依現象と悪魔憑きには似たものがあります。でも、人間の方はイマジネーションが豊富なせいか、それに色々な物語をくっつけていって、一応納得のいく因果関係を構築してしまいます。善と悪の関係、神と悪魔の関係といったものです。そして、あくまで概念上の神とか悪魔が実際の人間界に入りこんできているのが、今の宗教の世界ではないかと思うわけです。

何か難しい言い回しになりましたけど、この映画を観てると、思い込みで人が殺しあっているのが、ホントに神と悪魔の闘いなのかという気がしてくるのですよ。極端な言い方をしますと、キチガイの派閥抗争のような展開になってくるのです。何しろ、人間界にも、悪魔側に信奉者が結構いて、そいつらがピーターの悪魔憑きを待っているというのです。普通は、善と悪なら、善の方を選ぶよねと思うのも、甘いらしくて、悪魔の方をヒイキにしている皆さんもかなりいるということらしいのです。だったら、人間界で神と悪魔の代理戦争が起こるのも無理はない、宗教戦争が起こるのと同じレベルで、神側の人間と悪魔側の人間が殺しあうことになります。

全てのことの本質を神と悪魔に置き換えてしまうのは、写真に写り込んだ得体の知れないものは全て霊だと決めつけるのに似たものがあります。この映画の中では、あのウィノナ・ライダーちゃんが、「悪魔は実在する」ときっぱり言いきってしまうのですが、線が細くて思い込み強そうな彼女が言えば言うほど「それちょっとヤバいんじゃないの?」とツッコミを入れたくなってしまいます。科学が全てというつもりも毛頭ありませんけど、客観性を欠いた信念と確信ってのは怖いよねえーと思うのは、オウム真理教の事件が立証しています。「クルーシブル」でも狂信的なヒロインを熱演した実績のあるライダーだけに、非常に説得力があり、さらにコワさ倍増となりました。

しかし、この映画は、ある程度この思い込みヒロインを支持している節があります。つまり、悪魔の存在もそれに対して多少の荒療治が必要でそのための犠牲もやむなしという視点です。映画としての主張を持つことは結構なのですが、私には「それはどうかな」という気分の映画でもありました。超自然的な現象の存在は否定しないのですが、それを神とか悪魔の仕業だと思うか、あるいは霊の仕業、宇宙人の仕業と思うかなど、解釈の仕方は様々です。ところが、神や悪魔だけ、そのあたりの冷静、客観的な判断からの除外項目になっているのは、無気味だなあと思うのでした。まあ、信心深い人から見れば、バチあたりであり、中世のヨーロッパなら火あぶりにされちゃうんだろうな、こんな事言ってると。


お薦め度×ドラマとしては弾まないので娯楽ではないなあ。
採点★★★☆
(7/10)
SFXのサービスカットはいただけません。

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