WATARIDORI
LE PEUPLE MIGRATEUR


2003年04月12日 神奈川 川崎チネチッタ3 にて
渡り鳥の生態を追ったドキュメンタリー、ではない。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


池でしょうか、水辺に渡り鳥がやってきます。飛び立とうとした時、1羽の足に網がからまってしまいます。そこへやってきた少年がその網を外してやると、鳥たちは何千キロの旅へと飛び立っていきます。そして、渡り鳥たちが地球の上を旅し続けるのです。

ローマ字で「WATARIDORI」というのは、センス悪いなーと思いましたけど、映画本編は大変よかったです。世界中をロケしまくったようで、文字通り北から南まで撮影隊は飛び回ったようです。そして、撮影したものは、渡り鳥が空を飛ぶシーンがメインです。とにかく、カメラが飛んでいる鳥とニアミスしそうな位のドアップで撮影しているのに、まず驚かされます。飛んでいる鳥を横から捉えた構図、さらには鳥の真後ろから鳥の視点で撮った絵など、その映像だけで、感動させるものがあります。だって、カメラが渡り鳥になりきっているという感じなんです。この主観的な視点からして、どうやら、作者はこの映画をドキュメンタリーとして作ったのではなさそうなのです。

とにかく渡り鳥の絵が欲しい、そんな気持ちが伝わってくる映像はあえて、何かを主張してくることはありません。ただ、ひたすら渡り鳥たちの渡りを追っていきます。大自然の中を群れをなして飛んでいくものもいれば、大都会のビル街や工場地帯を飛んで行くものもいます。中にはハンターに撃たれてしまうものもいますし、雛鳥が力尽きて、他の鳥や動物のえさとなっていく様も見せます。その様子に妙な解釈をつけないところがこの映画のいいところで、ただ、何千キロの距離を季節に合わせて移動する渡り鳥たちがいるということを見せたい映画になっているのです。

プログラムによると、この映画の撮影のために、鳥たちに刷り込みを行い、人間を恐れないようにした上で、撮影したそうで、そのおかげで、大接近ドアップ映像が撮れたのだそうです。なるほど、鳥の方をカメラに慣らしたとわかれば、納得はできますが、すごいことをしてるんだなあって感心してしまいます。

また、映像に加えられたブルーノ・クーレによる音楽がこの映画の中で大変大きな比重を占めています。ニック・ケイブ、ロバート・ワイアットによる歌も彼の手によるもののようですが、そのメロディラインの美しさが映像の驚きをさらに感動へと盛り上げることに成功しています。英語のわからない私にとっては、歌詞がわからない分、音楽からのメッセージ性がなくなり、純粋に映像と音のコラボレーションの中に身を委ねる事ができました。

鳥たちのなかには、カモメ、鶴といったメジャーなものから、初めて見るような珍しい鳥、さらには、ペンギンまで登場します。また、単に飛んでるシーンだけでなく、求愛シーンや餌を取るシーンなども盛り込まれていて、最後まで楽しめる映画に仕上がっています。そして、自然の不思議や驚きを実感することができるという点で、この映画は高く評価されるべきと思います。同じ素材の映像を編集によって、エコロジーのメッセージを前面に出した映画にすることもできたでしょう。しかし、そうなると、撮影方法とかCGの使用といったものが、非難の対象になってしまったり、せっかくの映像の価値をおとしめることになってしまったかもしれません。社会性とか問題提起といった主張を一切表に見せないことで、この映画から胡散臭さをなくし、純粋に娯楽映画と楽しめるということは、大変重要なことだと思います。


お薦め度×エコロジーとか説教臭さがないから素直に感動
採点★★★★
(8/10)
見たいもの見せたいものを映像化しようという心意気が好き

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