written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
城と呼ばれる刑務所に元中将というビッグな肩書きの人間が送り込まれて来ました。作戦時のミスで部下を死なせた男ウォーレン(ロバート・レッドフォード)です。刑務所長(ジェームズ・ガンドルフィーニ)は、厳しい管理で囚人たちを締め上げていますが、歴戦の勇者であり、本も出しているウォーレンには、敬意と優越感の入り混じった感情で接します。とにかく、無事に刑期を終えて、早く孫の顔が見たいウォーレンは、その行き過ぎた管理にも見て見ぬふりを決め込んでいました。しかし、ついに堪忍袋の緒が切れるときがやってきて、彼は元軍人の囚人たちで軍隊を組織してしまいます。そして、ついに決行の日がやってくるのでした。
刑務所を舞台にしたアクションありの人間ドラマとでも申しましょうか。理不尽な刑務所長に対して、ついに反抗の暴動を起こしてしまうというもの。囚人が刑務所を制圧しちゃおうというのですから、かなり無理をするなあっていう話なのですが、ロバート・レッドフォードというスターを得て、監督のロッド・ルーリーは、スター映画に仕立て上げることに成功しました。この主人公のキャラクターは、ベトナム戦争で、収容所での拷問に耐えた実績があり、指導者としての人望は厚いが、家族とはうまくいっていないという、それなりにリアルな設定にはなっているのですが、レッドフォードが演じることで、問答無用の絶対的ヒーローになってしまったようです。でも、そのおかげでシンプルなストーリーとなり、演出も彼をどう引き立たせるかということに力が注がれています。
しかし、国旗に対する格別の思いとか、愛国心といったところにキナ臭さも感じてしまうのですが、それもスター映画の小道具だと思えば、ま、いいかと許せてしまうのですね。でも、実際には、囚人が軍とか体制側に反乱を起こすという話だから、リベラルだと言えないこともなさそうです。物語は、独裁的な所長と、主人公との対決の図式となるのですが、主人公がスターゆえに、あまりキャラクターの奥行きが出ず、その分、人間的なジェームズ・ガンドルフィーニが設け役となりました。威丈高で、残酷だけど、小心者で権威に弱いという所長のキャラにガンドルフィーニはぴったりとはまりました。憎憎しい悪役というには、ちょっと滑稽で情けないキャラは、最初のところで勝負あったという感じなのですが、それも娯楽映画のお約束と思えばってところです。他の連中が皆単純なキャラクターなのに、敵役の所長だけが人間的な奥行きを持ってしまったというのは、全体のバランスとしてはよくないのですが、それでも、彼の好演で映画の格が上がったようにも思えたのでした。
囚人たちはいかにもという面々をそろえているのですが、その個性を活かしきるところまでには至らなかったようです。本当ならもっと集団ドラマとして展開するであろうシチュエーションなんですが、レッドフォードを中心に置いたことで、彼が右向きゃ皆も右向くみたいな展開になってしまったのは、まあスター映画の宿命なのかもしれません。クライマックスは、看守と囚人の集団戦となって、なかなかの迫力ある見せ場となります。一進一退の攻防になってしまうのには「ホンマかいな」という気もしてしまうのですが、それでも結構盛り上がる見せ場になっています。
そして、囚人たちは、刑務所占拠を公にするために、国旗を逆さに掲揚しようとします。それを何としても食い止めようとする所長、ついには実弾の使用も辞さずというところまで、看守側も囚人側も追い詰められてしまうのですが、そこにどういう決着がつくのかは本編でご確認下さい。あまり後味は良くないですが、ヒーローは最後までヒーローであり続けるお約束は遵守されています。
「コンテンダー」のロッド・ルーリーの演出は、シンプルに手堅くまとめていまして、意外と淡々とした展開を見せます。愁嘆場や泣きのシーンを避けているようで、その意味では知的な見せ方ということもできますし、スター映画としての盛り上げが足らないということもできましょう。ヒーローと刑務所長を紙一重の関係にして、五分と五分の闘いにしたら、また違った視点が見えてきて面白かったかもしれません。一歩後ろに下がって客観的な映像を切り取ったシェリー・ジョンソンのキャメラ、静かな情景音楽に味わいを見せたジェリー・ゴールドスミスの音楽も、スター映画らしからぬ落ち着きを感じさせました。
お薦め度 | ×△○◎ | 久々の正統なスター映画って感じ。 |
採点 | ★★★ (6/10) | 脇の面々がうまくレッドフォードを引き立てました。 |
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