レディ・イン・ザ・ウォーター
Lady in the water


2006年10月01日 神奈川 川崎チネチッタ6 にて
アパートのプールに現れた水の妖精を元の世界へ戻そうって、それマジ?


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


フィラデルフィアのコーブ・アパート。その管理人クリーブランド(ポール・ジアマッティ)の前に、謎の美女ストーリー(ブライス・ダラス・ハワード)が現れます。彼女の言うには、彼女は水の精であり、そしてアパートの住人の中国人の老女の伝説を真に受けるならば、彼女には特殊な能力があり、彼女はある出会いのためにこの世に現れ、彼女の命を狙う邪悪な存在がいて、彼女を無事に故郷へと送り返すためには、その役目を持った人間たちの助けが必要なのだと。彼女のためにクリーブランドはアパート中を巻き込んで、彼女を無事に妖精の国に送り返そうと駆けずり回るのですが。

M・ナイト・シャマランという人は、「シックス・センス」で世間の評判を集めた後は、「アンブレイカブル」「サイン」「ヴィレッジ」とはっきり言って、やりたい放題の映画を作り続けてきました。不思議な雰囲気と意外性のある結末は、私は結構好きなんですが、作品を重ねることにその評判は芳しくないほうに傾いているようです。この作品も評判はあまりよくなかったんですが、それでも、独特の世界観は楽しめるかなあくらいの期待はありました。前作「ヴィレッジ」では、映画の仕掛けをドラマの脇に置いて、ヒロイン中心のドラマに仕上げていまして、今回は、仕掛けとドラマの比重がどっちにいってるのかってところにも興味がありました。

今回の設定は、水の精という、ファンタジーの素材をリアルな現代のアメリカに持ってきたということなんですが、驚くべきことに、水の精を何の仕掛けもなく現代アメリカにぶちこんできました。「ヴィレッジ」でさえ、謎の怪物と村の掟という仕掛けで観客を翻弄したシャマランでしたが、今回は何の仕掛けもなく、そのまんまファンタジー世界のルールを現代に持ち込んで、何の摩擦も起こさないドラマをあっけらかんと作り上げました。「そんなアホな」と突っぱねることも可能ではあるんですが、私は映画館の中では、この話に結構はまってしまい、クライマックス前では泣かされてしまったのです。別に場所や時間に関係なく、信じること、人を助けること、愛することのドラマは、うまく作れば人の心を打つものがあります。

この映画では、登場人物のキャラがきちんと描けていて、そこに共感できると、水の精に存在感がなくてもドラマに引きずりこまれてしまいます。伝説のルールで、ライター、職人、守護者、治癒者という役割があるなんてのを、大マジメにやるのは、この類のファンタジーノベルやRPGを知らない人にはしんどいかもしれませんし、水の精の名前がストーリーで、唯一の部外者が評論家(ボブ・バラバン)だというメタファーもピンと来ない人は多いでしょう。それでも、映像化しちゃうってところがやりたい放題だと思った次第です。その出来栄えの評価は後世の判断にゆだねるとしても、今の時点で、ここまでお客に媚びないで好き勝手やってるってのはある意味爽快とも言えましょう。

素直に見れば、ホントに泣けるお話でして、ポール・ジアマッティの熱演がなかなかにいいんですよ。まあ、細部に目をやると、脇役の扱いや、悪い怪物のルックスに難ありだとか、物語の設定を全部中国人のおばさんにゆだねているとか、変なところもありますから、映画としてのトータルのできはそこそこなのかなあ。後、ジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽が控えめながら、完全にファンタジーな音を鳴らしていて、この映画の世界観を支えるのに大きく貢献しています。現代のアパートが舞台なので、鳴らしすぎては浮いちゃうし、現代的な音では物語の足を引っ張るというところを大変バランスよく音を割り振ったと思います。

以前、「サイン」を観た時、シャマランの映画を楽しむにはアソビ心が必要と書いたのですが、作品を重ねるに連れて、アソビ心は影をひそめているよう思えてきました。アソビ心と思っていた「とんでも」な部分が実はシャマランの本音だったのかなって気がしてきたのです。半分ウケ狙いでやってるのかと思っていたら「こいつ本気だぜ」って感じでしょうか。特に今回、本人が一番変な奴で登場するのを観て、エンタテイナーじゃなくて、変な人なんだなって思いを新たにしました。「変な」というのは、ファンタジーのダリオ・アルジェント、愛と希望のジョージ・A・ロメロという称号が似合うかな、というくらいの意味合いです。これで、娯楽映画としての手腕をあげていくと、おとぎの国のブライアン・デ・パルマくらいになるのではないのかな。ともあれ、彼の次の作品がまた楽しみになりました。ま、これが大コケしたら、次はないかもしれないけど。


お薦め度×シャマラン監督はどうやら本気で変な人みたいです。
採点★★★☆
(7/10)
変なんだけど、結構泣かせるいい話になってるってのが何だか困っちゃう。

夢inシアター
みてある記