ピアニスト
La Pianiste


2002年02月11日 神奈川 関内アカデミー1 にて
ピアノの先生という表の顔のその裏は?


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


エリカ(イザベル・ユペール)は母親(アニー・ジラルド)と二人暮らしで独身です。どうやら、ピアノに人生を捧げてきたようで、今は音楽院の教授職にありますが、母親とベッドを並べて寝たり、ちょっと帰りが遅いと母親から詰問されたりと、何か普通ではなさそう。そんな彼女を若いワルター(ブノワ・マジメル)が言い寄ります。でも、彼女の望む愛のかたちって、かなりビョーキ入ってるみたい。そんな彼女とワルターの愛の落ち着く先はいずこ?

2001年のカンヌ映画祭のグランプリと、主演女優賞、主演男優賞をとった作品だそうで、そういう意味での期待はありました。でも、のっけから異様にテンションが高いので、まずびっくり。外から帰ってきたおばさんエリカに、母親が一体どこに行ってたのと、まるで小娘扱いで詰問するシーンから始まります。このオープニングだけで、母娘は尋常な関係ではなさそうという予感がします。いい年こいて、お互いが依存しあう不気味な母娘です。寝る時も同じベッド、ちょっと帰りが遅いと、出先まで電話をかけてくる母親の姿は、恐ろしくも哀れを感じさせます。これを演じているのが、70年代に何本もの映画でヒロインを演じたアニー・ジラルドだけに、余計めに鬼気迫るものがあります。このあたりで、ひょっとして、とんでもない映画を観にきてしまったのかなという、いやな予感が頭をよぎりましたもの。

そんな、エリカに若い青年が積極的にアプローチしてきます。いかにもマダムキラーな甘いマスクの男の子だけに、お、これは送れてきた春という展開になってくるのかなと期待したのですが、ところがどっこい、ヒロインはそれ以前にかなり変な性癖があったのです。いわゆるポルノショップに行って、個室ビデオに入り浸ったり、ドライブインシアターでカップルを覗き見したりと、まあ孤独な女性ならば、まんざら理解できなくもないのですが、それでも、若い彼氏に言い寄られるような女性のやる行動とは思えないのですね。一方では、妙に見栄を張っているのか、ワルターの思いに素直に応えようとしないのです。

このあたりから、SM的な展開になってくるのですが、ワルターをいたぶっているようでもあり、自虐的でもあるエリカのキャラクターは、私には読みきれないものがありました。女性の方が共感できないまでも、理解しやすいのかなという気がします。ワルターが割と単純二枚目キャラになっているので、男性としては理解できる部分多く、段々ヒロインにはまってしまう展開も、共感はできなくても納得できるものがありました。

これを愛の物語と呼ぶのも、ピアニストの物語と呼ぶのにも抵抗をおぼえます。この映画がピアニストの部分がよく理解できなかったからです。彼女のシューベルトへのこだわりといったものとか、芸術への取り組みというものと、彼女の性的な嗜好がそれほど強い関連を持っているように思えませんでした。ただし、母親との関係が、彼女の芸術性と性的嗜好に影響を及ぼしていることは確かなようです。異常なほどの干渉と抑圧により、まるで怯えた猫のようなヒロインがピアノ教師として見せるサディスティックな顔のギャップは、不気味でもありますが、ある意味痛々しくもありました。

しかし、こういうふうに内へ内へとこもっていくキャラクターというのは共感できないのは勿論なんですが、映画その物も何か一人よがりのような印象を持ってしまいがちです。この映画も、普通じゃないヒロインと同化しないと物語を追えないところがあって、あまりとっつきがよくありませんでした。そんな中でラストのコンサート会場のシーンで、やっとヒロインを遠目に見る視点が現れてきて、ここは「おや?」と思わせるものがありました。ナイフをバッグに忍ばせたヒロインを追うキャメラの視点がそれまでより引いたものになっているのです。そこで見せる結末は劇場でご確認頂きたいのですが、ヒロインの一瞬見せる表情から、私は女性のしぶとさを見た思いがしたのです。男は忘れることで乗り越えるものを、女はそれを取りこんで血肉にして乗り越える、そんな女性の怖さを感じたのは、私だけかなあ。


お薦め度×ちょっと共感も理解も難しいのは私が男だから?
採点★★★
(6/10)
不気味なテンションで見応えはありますが、だから何って感じだけど。

夢inシアター
みてある記